「私たちは史実にのっとって『ここにこう書いているからこうだ』というような書き方をしますが、昔のものはどこに根拠があってそう書いてあるかわからない。それは時代による研究のスタンスの違いでしょう。私は足場を歴史学に置いているので、たとえ昔の文献に何かが書いてあったとしても、それが事実かどうかを他の資料から確認しないといけないと思っています。でも昔の人は、書いてあるから全てそれが正しいと捉えているようです」

「聖徳太子の頃から忍者はいた」は本当か

例えば忍者の起源。昔の文献には「聖徳太子の頃から忍者はいた」と書かれていることが多いが、そのもととなっているのは江戸時代の忍術書に書かれていた情報だ。だがそれは、由緒を遡らせるために忍術書の中で「自分たちの起源は古代の有名な聖徳太子の忍びだ」と書かれたと考えられ、史実とは異なる。

学問的立場から事実としてはっきりしているのは、南北朝時代に書かれた『太平記』という作品に忍びが出てくるため、南北朝時代から忍びが成立してきた、ということだ。だが昔の研究文献では、「江戸時代の忍術書に書いてあるから聖徳太子の時代からいた」という理由だけで受け入れられていた。

畳の上の巻物
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こうして忍術書からわかってきた内容のうち、忍者が非常食としてよく食べた兵糧丸の作り方や火の術など実験が行えそうなものは理系の教授陣と連携して、「本当に実験するとどうですか?」と持ちかけて再現してみる。兵糧丸の場合は、兵糧丸の成分を使ったクッキーの商品開発にもつながった。

現代人も学ぶべき「自力救済の世界で生きる術」

忍術書を読んで見えてくるのは、術そのもののノウハウだけではなく、忍者に求められる人柄や、ソフトスキルの知恵だ。「忍術書には、普段から多方面の人と知り合いになり、常日頃から連絡を取ることが重要だと書いてあります。そうすることで、いろんな情報を得て、いろんな見方や考え方を知ることができる。それは現代人にとっても重要なことではないでしょうか」と山田さん。