なぜ忍者は1日200キロも歩けたのか

他にも、忍者が携帯食として食べた兵糧丸ひょうろうがんの成分を分析して再現したり、忍者の呼吸法で呼気が1分間にも及ぶ「息長おきなが」の効果を脳科学者とタッグを組んで分析したり、スポーツ科学の専門家と組んで忍者が1日200キロもの長距離を歩くことができた秘訣ひけつを分析したりと、現代科学の力を使った研究も行っている。

例えば忍者の歩行の研究では、一般的に歩くように後ろの足で蹴る歩き方と、着地する時に膝関節を緩める忍者特有の歩き方を比較し、筋肉の活動量と床からの反力を測定した。それによると、忍者の歩き方はももの筋肉の活動量は4倍近く増えるものの、より疲れやすいふくらはぎの活動はセーブできている上、ブレーキの少ない効率的な動き方をすることで疲労を軽減しながら長距離を速く歩くことができたとわかった。こうした研究をはじめ、現代人が参考にできそうな教えはたくさんありそうだ。

海外メディアも注目する三重大学の忍者・忍術学

三重大学で忍術学の研究が始まったのは2012年のこと。以来、2017年に国際忍者研究センターが設立され、大学院で忍者・忍術学の専門科目が設立されたのはその翌年だ。

大学院の実習ではかつて忍者がそうしたように、伊賀山中で敵に見つかりにくい低い姿勢で歩き、草むらを這い、ロープで梯子を作り崖を登り降りし、といったように、木が生えていて、凸凹があって石も転がっている環境で忍者の動きを再現する様子がメディアでも取り上げられた。

こうしたファンキーな面に着目されることが多く、海外メディアからは「ニンジャになれる専攻が日本のミエにある」と報道されてしまうこともあったが、実習の意義について山田さんはこう説明する。

「忍術書を読んでいても、『口伝』(口で伝える)と書いてある部分が非常に多くて、忍者について読んだだけではわからないところがたくさんあると思うんです。6歳の頃から師匠につき、忍術を継承している方に教えてもらって、忍者の体の使い方を知ることは意義があると思います」