長蛇の列になる原因は、充電所の数だけではない。そもそもEVの充電は時間がかかる。ガソリン車なら給油にかかる時間はせいぜい数分。一方、EVはフルに充電しようと思えば数時間かかってしまう。

そもそもEVは気候変動問題の解決に必要という意見もあるが、世界の電気の6割強が石炭やLNGなどの化石燃料を燃やしてつくられている以上、説得力がない。

また毎年発生する雪害・地震などの災害に弱い点も気がかりだ。大雪で車が動けなくなり、充電所までたどり着けないリスクがある。寒さをしのごうと暖房をつけると、電気の減りも早い。もちろんガソリン車も同様のリスクはあるが、ガソリンはポリタンクで運んでの給油も容易でEVよりラクだ。また、北海道の胆振いぶり東部地震で起きた大規模停電などを見れば、災害時に長期間充電できなくなる怖さがわかる。

日本はEV普及期であり、いまあげた問題はそれほど注目されていない。しかし、先行しているヨーロッパやアメリカ、中国では、EVがバラ色ではないという認識が広がりつつある。それがテスラ株下落の構造的背景である。

イーロン・マスクは過激な言動で、すぐに敵をつくってしまう

テスラの株価が下落した要因はもう1つある。イーロン・マスクという“経営者”に対する疑義だ。イーロン・マスクは、これまで技術力に基づいた経営で事業を成長させてきた。ペイパル、テスラ、スペースX。いずれも技術で新しい市場を創出しており、実績は申し分がない。

ただ、技術は先進的になるほど人を不安にさせる。たとえば自動運転も完全自動運転のレベル5になれば、「変人奇人のイーロン・マスクが開発したシステムなど信用できない」という声が続出する恐れもある。この壁を乗り越えて社会に受け入れられるには、技術以上に“人”の問題が重要だ。要は「あの経営者は人格者だから信用できる」と思わせないとダメなのだ。

ところが、イーロン・マスクは過激な言動で、すぐに敵をつくってしまう。端的に表れたのは、ツイッターの買収だ。22年4月には筆頭株主になり、いったん当時の経営陣と買収の合意に達したが、7月に撤回。すったもんだの末に10月に買収が完了した。同時に経営陣をクビにして、その後、従業員も次々に解雇した。

買収のやり方もスマートではなかったが、人々をより不安にさせたのは動機だろう。イーロン・マスクは買収の理由を「言論の自由を守るため」と言っていた。永久凍結されていたトランプ前大統領のアカウントを復活させたのも、その主張に沿ったものだった。しかし、一方でニューヨーク・タイムズやCNNなどの記者のアカウントを凍結。イーロン・マスクの「言論の自由」は、気に入らないジャーナリストは黙らせる「独裁者の自由」だったのだ。