天然ガスの供給再開をチラつかせるロシアの意図
すでに述べたように、主要先進国からの経済・金融制裁に反発するロシアは、ヨーロッパに対するガス供給を絞り込んできた。主要なパイプラインによるロシアからヨーロッパへの天然ガスの供給量は、ノルドストリームとヤマルパイプラインによる供給の停止を受けて、ウクライナ侵攻直前の5分の1程度にまで減少している(図表2)。
そのロシアは、EUに対して天然ガスの供給再開を持ちかけているようだ。昨年12月25日付でロシア国営の通信会社タス通信が伝えたところによれば、ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相は、ベラルーシとポーランドを経由するヤマルパイプラインを通じた天然ガスの供給に関して、それを再開する用意があると発表した。
ヤマルパイプラインによる天然ガスの供給が停止された背景には、ガス料金の支払いに関するロシアとポーランドの交渉の決裂があった。ロシアによるルーブルでの支払い要求をポーランドが拒否したため、ロシアがヤマルパイプラインを通じたガスの供給を停止したのである。ではなぜこのタイミングで、ロシアは再開を持ちかけたのだろうか。
国家財政は火の車になっている
最大の理由は、ロシアの国家財政が急速に悪化していることにあると考えられる。ロシアの昨年10~12月期の連邦ベースの財政収支は▲3兆3608億ルーブルと、赤字幅は7~9月期(▲1兆3192億ルーブル)から1.5倍に増えた。前年比でも、昨年10~12月期の赤字幅は一昨年から2倍に膨らんでいる(図表3)。
歳入は堅調に増えており、特に石油・ガス収入といわれる資源企業からの税収は3兆796億ルーブルと近年にない高水準だった。にもかかわらず財政が悪化しているのは、歳出がそれ以上のペースで増えているためだ。歳出の細目はまだ不明だが、その増加をもたらしているのは、ウクライナとの戦争に伴い急増が続く軍事費であろう。
軍事費が膨張しているにもかかわらず、兵士への報酬は支払いが停滞し、士気を低下させているようだ。ロシアの独立系メディアThe Insiderは昨年11月2日、ウリヤノフスク州にある軍事施設で給与の未払いに抗議した兵士による100人規模のストライキが発生したと報じている。つまり、軍事費の多くは兵器など資材の調達や訓練の費用に充てられているのだろう。