10人の入居者が火災事故で亡くなったことも
行われているのは暴言や暴行などの身体的虐待だけではない。より表面化しにくいものが入居者の金銭を搾取する「経済虐待」だ。
特養ホームでも、家族のいない認知症高齢者など、利用料や日々の生活費支払いのために施設側が印鑑や通帳を管理することがある。保証人のいない独居高齢者が亡くなった場合、残った財産や預貯金をどうするのかという問題もあり、行政への報告も義務付けられている。
預金通帳と印鑑は別の人間が保管する、入出金はダブルチェックを行うなど厳格に管理しなければならないが、無届施設ではそんな手間のかかることはしていない。定期預金がいつの間にか解約されていたり、持っていたはずの貴金属が行方不明というケースもある。明らかな窃盗だが、家族がいない場合、年金や預貯金がどうなったのかさえ誰にも分らない。
これは、防災や感染症の問題も同じだ。高齢者は火災や災害が発生すると逃げ遅れることが多い。一般住宅の火災でも死者数の7割は65歳以上の高齢者であることがわかっている。特に、要介護高齢者が集まって生活している介護保険施設、高齢者住宅では、ほとんどの人が自力で避難できないため大災害に発展する。
そのため、老人福祉施設や有料老人ホームは一般の賃貸マンションよりも高い防災基準・対策が求められている。しかし、サ高住は一般マンションの建築基準と同じ、無届施設は建築基準法や消防法さえ守っていないところも多い。徘徊の入居者が外に出ないよう外から鍵をかけて監禁しているようなところさえある。群馬県渋川市の無届施設で、10人の入居者が亡くなった火災死亡事故を覚えている人もいるだろう。
感染症や食中毒が重篤化するリスクがある
また、高齢者は抵抗力が落ちているため、コロナやインフルエンザ、O157、ノロウイルスなどの感染症・食中毒にかかると、重篤化するリスクが高い。集合住宅であること、食事や入浴などを共用部で集まって行うことからクラスターも発生しやすい。そのため、感染症や食中毒が発生すると保健所に届け出ることが義務付けられている。
しかし、ある無届施設ではインフルエンザとノロウイルスが同時に発生、1月の間に12人、4カ月に合計28人もの入居者が亡くなっている。それでも届け出も報告もされていない。これらの事例は多くが4、5年以上前のもので、ここ数年は無届施設や高齢者住宅での虐待、暴行についてはほとんど報道されていない。それは生活環境が改善されたわけではなく、コロナ禍の中、家族の面会さえも制限され、指導や監査も行われないため、より閉鎖性が高まっているからだ。
救急病院の医師から話を聞くと、適切な食事や介助・看護さえ行われておらず、ガリガリの状態で腰の骨が見えるほどひどい褥瘡のまま、半死半生で搬送されてくる高齢者もいるという。
しかし、先ほどのような医療法人が関係している無届施設では、その経営者である医師によって死亡診断書が書かれるため、警察も入らず、すべてが闇の中だという。家族がいない人はスタッフの虐待や暴行で亡くなっていてもわからないのだ。このような劣悪な無届施設は、わかっているだけでも650カ所、完全に社会から隔離され、クローズされた環境の中で悲惨な生活を余儀なくされている要介護高齢者は、全国で数万人にのぼる。