再び、中国から世界へウイルスが広がる
中国で感染が拡大しているコロナウイルスは、感染力が強いオミクロン株の変異型で、アメリカで猛威を振るい始めた「XBB.1.5」も含まれる。
「高熱が出て倦怠感もひどく、しばらく休職しました。個人差はあるにしても毒性が強いウイルスだと感じました」(上海在住テレビディレクター)
もっともWHOなどはこれらの変異株の毒性について「従来の変異株より重いとは言えない」と分析している。しかし、感染力が強いことは確かで、これが、延べ21億人が帰省や旅行に出かけるとされる春節(2023年1月21日から始まる大型連休)を経て国際社会に広がれば、中国・武漢からウイルスが世界に広がった3年前と同じ事態を招きかねない。
こうした中、香港中文大学の教員、小出雅生氏は筆者の問いに、香港市民から相次いで上がっている本音を紹介してくれた。
「中国本土との往来が再開されれば、香港は感染者だらけになる」
「中国本土から来た人たちに買いあさられ、薬局から薬がなくなってしまう」
コロナを放置する習近平総書記の“思惑”
こうした中、注目すべきは習近平総書記の思惑である。
習近平総書記は、2023年の新年のあいさつで、自身の「ゼロコロナ政策」の成功を強くアピールしてみせた。
「苦しい努力を経て、我々は前代未聞の困難と挑戦に勝利した」
つまり、「ゼロコロナ政策」をとったからこそ国民の生命と健康を守れたと自画自賛したのである。その上で、「防疫体制は新たな段階に入った」と政策の転換を正当化した。
しかし、コロナ感染者の爆発的な拡大を招いているのは、習近平指導部が拡大を食い止めるための努力を全くしていないためだ。
「ゼロコロナ政策」が遂行されていた期間には、中国共産党最高意思決定機関の中央政治局や政治局常務委員会が幾度となくコロナを議題にした会議を開催してきた。
ところが、2022年12月7日、政治局の会議で「ゼロコロナ政策」を方針転換させて以降、目ぼしい会議は開催されていない。あれほど国民の基本的人権や自由を縛る政策を推し進めてきたのがうそのように無為無策。言うなれば「放置政策」をとってしまっている。
この背景には、2022年11月、「ゼロコロナ政策」に反発する国民の抗議行動が中国全土に波及し、習近平体制を揺るがしかねない規模になったことがある。