特に、サムスン電子は、デジタル家電、スマホ、メモリ半導体、さらにはロジック半導体などの受託製造を行うファウンドリ事業や車載用バッテリーなど世界経済の先端分野での設備投資を積み増した。それによって輸出競争力を高め、給与水準も高まった。同社を中心に財閥系大手企業での就職を目指して受験競争も熾烈しれつ化した。

反対に、一部の大手企業に就職することが難しいと、満足のいく生活を送ることは難しいだろう。わが国に留学する若者と話をすると日本での就職を希望する人も多い。輸出牽引型の経済運営によって経済全体でGDP成長率を高めることはできた。ただ、多くの個々人が所得向上などを実感することは難しいとみられる。

資産を持つ人、持てない人の格差が鮮明に

2点目は、家計の債務残高の増加だ。よりよい雇用や所得環境を求め、政治と経済の中心地であるソウル近郊に移り住む人は増えた。住宅需要は押し上げられた。一方、過去の政権は住宅価格の上昇を抑えるよりも、ローン規制の緩和など市況を過熱させる政策を進めた。リーマンショック後の世界的な低金利環境の継続観測の高まり(楽観)も加わり、ソウルのマンション価格などは高騰した。すでに資産を持つ人の富は増えた。

韓国・ソウルの明洞
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しかし、若年層や多くの現役世代の雇用・所得環境は厳しい状況が続いた。より良い生活を求めて首都近郊に移り住みはしたが、住居の確保のための借り入れが増えて生活が一段と苦しくなった人は多いとみられる。その結果、ハイリスクの投資を行い、苦境からの起死回生を図ろうとせざるを得ない人は増えたのではないか。

中には自己資金以上のお金をつぎ込む人も

今後、韓国の家計部門における不良債権増加の恐れは高まりそうだ。韓国のインフレは依然として高い。2022年12月の消費者物価指数の上昇率は前年同月比で5.0%だった。インフレのピークは過ぎたと考えられるものの、韓国銀行(中央銀行)は利上げを継続しなければならないだろう。政策金利が想定された以上に引き上げられる可能性もある。それよって金利は上昇し、変動金利型住宅ローンの利払い負担は増える。家計にはより大きな打撃が生じやすい。中小企業の利払い負担も増えるだろう。