保守と左翼がいずれもユートピアと褒める不思議 

維新後に発展した日本文化を江戸時代からあったと誤解しているケースも多い。先ほども説明したように、武士道は新渡戸稲造が欧米人受けするように創ったものだし、陽明学も江戸時代に萌芽はあるが明治以降に流行したものだ。

江戸時代の民家は貧弱で、城下町の立派な町並みは明治後期から昭和初期にかけてのものだが、「小江戸」とかいって江戸時代のものと錯覚されている。時代劇は江戸の町ばかりだが、江戸は現在の平壌ピョンヤンと同じように別世界で、移動の自由がないなかで江戸の武士も町民も特権階級だったのに地方の惨めさが描かれない。

孔子が周王朝の初期を自分の理想を語るために理想郷としたのと同じで、理想社会を過去に求めることはよくあるが、日本では極端に顕著だ。保守は封建時代を美化し、左翼は貧しくとも安定を求むので、結果として江戸時代への賛美に収束するのだ。

極端な修正主義史観は国益を侵害する

この風潮は、日本だけで通用する世界史への特異な理解にもつながる。フランス革命が民主主義へ世界を導いた転換点であるのは世界の常識で、200周年となる1989年には、パリで「アルシュ・サミット」が開催され、世界の首脳が人類史における意義を再確認した。

パリのシャンゼリゼ通りで毎年行われている革命記念日(7月14日)のパレードには、あのトランプ大統領も主賓で招かれ、日本からは中曽根康弘首相が希望して出席して、歴史的偉業をフランス国民とともに祝ったことがある。2018年には安倍首相が主賓として招かれ自衛隊が先頭で旭日旗を掲げて行進した(首相は豪雨災害で出席中止)。

そもそも、明治維新もフランス革命やナポレオン、あるいはそれに触発されたビスマルクが創った近代国家をめざしたものである。にもかかわらず、フランス革命の時代に英国人として難癖をつけたエドモンド・バーグとかいう英国人の著書を保守主義のバイブルとか言って、フランス革命をネガティブな出来事として糾弾するのが日本の保守派の流行というのにはあきれるしかない。

そんなことを言っていると、世界から極端な修正主義史観だと受け取られかねないし、それは日本の政治に対する信頼を失わせ、国益を侵害するものだ。

江戸時代への過剰な賛美も同様だ。NHKが大河ドラマで江戸の社会をどのように描くのかも注目だが、人権無視で世界の文明に背を向けた江戸時代について、正しく科学的な評価がされるべきである。

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