こうして随時、時間の使い方を切り替え、現場で現実を直接感じ取るのは、部下に仕事を任せる仕組みとも結びついている。第一線からホウレンソウで情報が順に上がってくるとき、すべての輪がうまくつながるのが理想だが、組織が大きいと、ある段階で“玉虫色”に変わる可能性も否めない。私自身、社長就任前は「この話は上に上げるのをやめておくか」などと考えたこともあった。
そこで、トップ自身が現場で見聞きした情報と下から上がってきた情報をすり合わせて判断すれば、経営をあるべき方向に進めることができる。情報のズレや停滞が頻発すれば、組織のどこかでタガが緩んでいる兆候で、もう一度、立て直す。もし、トップが社内の会議で多くの時間を費やしていたら、そうはいかずに経営は別の方向に進むかもしれない。
組織が全社員をとおして使える時間は限られている。それを会議に多く投入するか、下に任せることでそれぞれの時間を活かすか。トップはもちろん、各リーダーはビジネスという名のツアーにおける“旅程管理者”の役割を担っていることを肝に銘ずべきだろう。
(勝見 明=構成 佐粧俊之=撮影)