国内ニュースに還流される構図がある

記者クラブはメディア側の「自律」が大切だが、実際には言葉が形骸化しているケースは少なくない。

官邸クラブでの会見を見ると、官僚が記者会見を進行していて、首相や官房長官が発表したいことを一方的に話すばかりで質問時間や回数も制限している。記者側の質問もまるで事前に用意した答弁を読み上げるだけの国会答弁のようで、政権への忖度やおもねりが見てとれる。形式上は記者会見となっているものの、その様子は台本のある儀式のようだ。

外国特派員協会では、そもそも忖度する先が存在しない。毎回、記者たちがその場で考えた質問をぶつけている。そんな真剣勝負の記者会見のやりとりはYouTubeでも公開されている。

それまで同じ問題で何度か会見を開いている人物でも、外国特派員協会では質問を受けてより深みがある言葉を引き出されていることも少なくない。

五ノ井里奈さんのケースを見ても、12月19日の日本テレビやテレビ朝日の報道のように、外国特派員協会での「自分に覆いかぶさって腰をふった」というような音声を使うことで、それまで実態が見えにくくなっていた問題を伝えることができていた。日本国内のニュースなのにそれが外国特派員協会という記者クラブでの記者会見を経由して、新たな付加価値が日本のメディアに「還流」していく構図があった。

レバノン逃亡後のカルロス・ゴーン氏も…

テレビも新聞も「マスゴミ」などと若者たちに批判されることがもう珍しくもない時代になった。

これほど外国特派員協会での会見ばかりがニュースで使われるようでは、日本の従来の記者クラブ体制がもはや機能不全に陥っているのではないかと疑わざるを得ない。

日本の記者クラブがやらなかった人物を外国特派員協会が会見をセットした例として、日産自動車の元会長カルロス・ゴーンのケースがある。

2018年に特別背任罪などの容疑でたびたび逮捕され、2019年に保釈中にプライベートジェットで国外逃亡した。外国特派員協会は逃亡先のレバノンとオンラインで結んでゴーンの会見を実現させたのである。日本の刑事当局からみれば「容疑者」であり、「逃亡犯」であっても、なぜ日本から逃げたのか。彼の言い分は何なのか。それを聞いてみないことにはわからない。

内戦下のシリアで武装集団に拘束され、3年ぶりに解放されたものの「自己責任」だと非難にさらされたジャーナストの安田純平氏の会見もここで行われた。

同調圧力が強く、忖度し合う日本の記者クラブでは避けてしまいがちなゲストを選んでいる。