「日本記者クラブ」は会社ありき
外国特派員協会に匹敵するような組織が国内にないわけではない。
「日本記者クラブ」は国内メディアの記者向けに国内の報道機関が運営する組織だ。国政選挙の公示直前の党首討論や国際政治や軍事情勢、経済動向など大所高所からの大きなテーマについて専門家による情勢分析を中心にゲストを招いて話を聞くことが多い。
役所の縦割り主義に応じて縦割りの記者同士の担務になっている日本の記者クラブ制度は、守備範囲を決めにくい自衛官の性暴力などのテーマはどっちつかずになって手つかずになりがちな要因になっている。
こうした、いわゆる「記者クラブ」とは異なり、「日本記者クラブ」は横断的なテーマに対応している。
ところが、ここでも問題がある。ここに所属しているのは、基本的に各新聞社やテレビ局など大手メディアの論説委員や解説委員など一定の役職以上の人間だ。つまり、記者各々が所属している報道機関に紐付いているような形態になっているのだ。
「会社」が何かと前面に出てくる日本のメディアが加盟する日本の記者クラブと比べると、それぞれのジャーナリストである「個人」が加盟するという個人主義の意識が強いのが外国特派員協会だ。その違いは対照的だ。
伊藤詩織さん事件でもそうだった
今回の五ノ井里奈さんのように性暴力の問題で日本の既存メディアの記者クラブが十分に対応できなかった前例はこれまでもある。ジャーナリストの伊藤詩織さんのケースだ。
伊藤さんは2015年、当時TBSのワシントン支局長だった山口敬之氏との食事中に昏睡させられた末に「合意ないままに性行為を強要された」として、被害の実態と警察の捜査徹底を訴える記者会見を2017年5月29日に司法記者クラブで行った。当時は名字を伏せたが、下の名前と顔を出すかたちで会見した。
ところがこの会見が新聞やテレビなど主要な既存メディアで大きく報道されることはなかった。警察の幹部による、異例ともいえる逮捕の中止命令など、安倍政権中枢に近い「政治の力」が疑われるケースだったにもかかわらずだ。本人が顔を出して訴えたにせよ、片一方の当事者がこう言っているというだけにすぎないために記事にはできないと判断した社が多かったという事情もあったかもしれない。しかし、問題を深掘りしようとする記者がいなかったことは日本のメディアが抱える課題の深刻さを映し出しているように思う。
伊藤さんはその後、自分に起きた出来事をノンフィクション『Black Box』(文藝春秋)として上梓した。同時に2017年10月24日に外国特派員協会で記者会見を開き、以降、自分の性被害やSNSでのバッシング等に関する会見は主に外国特派員協会で行っている。