賃上げの恩恵を受けるのは社員全体ではない

その結果、今回の賃上げにつながっているわけだが、実は賃上げによって恩恵を受けるのは必ずしも社員全員とは限らない。つまり上がる人もいれば全く上がらない人も存在する。その背景には近年の年功型賃金から実力主義賃金への変更の動きがある。年功型賃金の企業には勤務年数別に基本給額を記した「賃金表」がある。仮に3%のベースアップがあれば、3%分を上乗せした賃金表に書き換えられ、全員がその恩恵を受ける。

しかし、実力主義賃金はそうではない。実力主義賃金の代表格は今流行のジョブ型賃金(職務給)や役割給と言われるものだ。労務行政研究所の「人事労務諸制度の実施状況調査」(2022年)によると、「役割等級制度」を導入している企業が42.5%、「職務等級制度」が32.9%となっている。一方、年功的処遇に近い「職能資格制度」の導入企業は54.5%となっている。

日本の職務・役割給を導入している企業の多くが人事評価によって昇給額を増減させる仕組みを持っている。つまり高い評価を得た社員は昇給額を増やし、評価が低いと基本給を減らされるマイナス昇給もある。

従業員間の給与差額のイメージ
写真=iStock.com/Andrii Zastrozhnov
※写真はイメージです

この制度だと、仮にベースアップしたとしても、その分を人事評価の高い社員に振り向け、評価の低い社員を昇給させない可能性もある。つまり、労使交渉で人件費3%アップを獲得し、当社の平均賃上げ率3%ですと世間に公表しても、恩恵を受けるのは全員とは限らない。

あるいは3%アップ分の人件費を初任給など若手社員の賃金アップに充当し、中高年の社員の給与はそのまま据え置くという可能性もある。

社員間給与格差が拡大する可能性

経団連の「2021年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」(2022年1月18日)では、ベースアップ実施企業に具体的な配分方法について聞いている。それによると「一律定額配分」の企業は35.1%、「一律定率配分」は10.4%である。一方、「業績・成果等に応じた査定配分」の企業が26.1%も存在する。また、「若年層(30歳程度まで)へ重点配分」と答えた企業は18.7%もあるが、「ベテラン層(45歳程度以上)へ重点配分」する企業はわずか2.2%にすぎない。

1年前のデータと比較すると、賃上げしても一律定額・一律定率配分企業が減少し、業績・成果に応じて配分する企業が増えていることがわかる(図表1)。

【図表】ベースアップ企業における、具体的な配分方法(複数回答)

ジョブ型賃金制度を導入する企業の多くの目的は外部の優秀人材の獲得と社内の優秀人材の定着にあると言われる。どうせ賃上げするのであれば、そのために人件費を使いたいと思う企業がいても不思議ではない。

来年、今年以上の賃上げが実現しても恩恵を受けられない社員も多く発生するだろう。その結果、社員間の給与格差がさらに拡大する可能性がある。

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