歯科医療にしても、日本のように虫歯治療を、7回も8回も分けて行うのは珍しいケースだ。アメリカの歯科医なら一個の虫歯なら治療1回で済ませる。逆に稼ぐためには歯の矯正やホワイトニングなどの美容歯科で評判をあげなくてはならない。

病院ごとに行われる血液検査やエックス線検査も、医療費の無駄遣いの典型だ。エックス線などは放射線の被曝量が多いため、回数はなるべく少ないほうがいい。しかし、他の病院で撮ったエックス線写真を持ち込んでも医者は受け付けない。現状においては、医療情報は患者個人のものというのは建前にしかすぎず、実際は、当該病院で行った血液検査とエックス線検査しか認めないのである。それは、血液検査とエックス線で病院側が、マージンが抜けるからだ。血液検査もエックス線検査も医療ポイントは決まっているが、実際はそれをはるかに下回る金額で、下請業者が仕事を行っているのだ。

処方を行うのは医師、調剤を行うのは薬剤師という「医薬分業」による院外調剤、要するに門前薬局で医者が処方した薬をもらう制度も、日本独特の“おかしな”制度だ。

薬について言えば、OTC薬、つまり安価な大衆薬が少ないのも大きな問題である。OTC薬が出回ると病院が儲からないから、日本では医者が処方しないと買えない医療用医薬品(ethical drug)ばかりとなる。世界中で一番売れているアレルギー性鼻炎の「クラリチン」も処方薬だし、鎮痛剤トップのニューロフェンやパナドールもOTC薬として買うことはできない。使い捨てのコンタクトレンズも医者の処方がないと買えない。アメリカやオーストラリアでは使い捨てコンタクトレンズは1年間は処方が要らないし、登録しておけば通販で買う方法もあるが、日本では通販サイトに安売り広告がたくさん出ているが正式には処方が必要だ。

そして会計窓口の隣で薬をもらえるありがたい病院もあるが、ここに儲けの秘密がある。それは、そういう薬のかなりの部分は製薬会社が試供品として病院に持ち込んだものといわれているからだ。つまり元手ゼロの試供品を正規の値段で売っているわけだ。そうまでして儲けたとしても実際に利益を出している病院は少ない。これは業務系などの経営が前近代的で、かつ専門分野別の縦割り組織が効率を悪くしているからだ。TPPに一番反対しているのが医師会だというが、近代経営の欧米の医療チェーンが入ってきたらひとたまりもない、ということをよく知っているからだ。

このようにして病院が二重、三重に儲けたツケや業務改善をしていない部分が全部、国民医療費に乗ってくるのだから、医療費が際限なく上がるのは当たり前だ。医療制度は日本の「カラクリ」の最たるもの。普通の国なら国民がノーと言うのだが、日本は患者が病院で直接支払う金額はどこの国と比べても少ない。諸外国では取り敢えず患者が負担しておき、保険の審査を経て還付される場合がほとんどだ。一時的とはいえ患者が負担することで抑止力となっているのだ。一方日本では受益者感覚が強すぎて、国民から医療費増大ノーの声が上がってこない。これこそが大きな問題だ。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 AFLO=写真)