情報は見えることで初めて検証することができる

【島田】紙のレシートが減るとCO2の削減に貢献できます。近い将来に実現したいのは、レシートの中でその商品がどれだけCO2使ったのかが分かるような仕組みですね。

【田中】なるほど、カーボンフットプリントですね。すばらしいですね。

【島田】例えば、このお茶が目の前に来るまでにどれだけCO2を排出したのかは誰も分かりません。分からないから解決できないわけです。ここに情報の非対称性がありまして、情報が見えてこないと分からないことがたくさんあります。今回の新型コロナウイルスの影響で政府はいろいろな対策を取りましたが、その効果はどうやって検証するのか。我々が政府に提案しようとしているのは、マイナンバーとスマートレシートの連携です。

例えば、政府が子育て支援のための支援金をマイナポイントで配布したとしても、なかにはギャンブルに使ってしまう人がいるかもしれません。しかし、スマートレシートと連携していれば支援金の用途を確認できます。着実に狙った目的で支援金が使われているのかどうか、リアルタイムで具体的な金額も把握可能です。それが「エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング(証拠に裏付けられた政策形成)」です。

【田中】そのアイデアも先ほどの利便性とセキュリティとプライバシーの三位一体が担保されていれば可能でしょうね。そもそも、三位一体が可能にならないとマイナンバーカードのこれ以上の浸透はないと思います。

【島田】最近のデジタル庁の動きは個人的に素晴らしいと思っています。河野大臣が先日発表したアナログ規制の撤廃や、運転免許証や健康保険証とマイナンバーカードの統合などが実現すれば、明らかに利便性が上がります。現在は銀行のキャッシュカードを紛失したら再発行が大変ですが、マイナンバーのようなベースレジストリがあれば簡単に再発行できます。他の手続きに関しても同様です。サービスが正確に提供できて情報漏洩がない仕組み、かつユーザーがどのように使っているかが見えることが非常に大切です。

【田中】セキュリティとプライバシーにつきますよね。お隣の韓国は行政DXについては日本より進んでいますが、自分のデータがどのように役所で使われたのかを確認できたり、トラブルがあれば通知が来るなど、そういったことが万全に行われていれば日本でも浸透するでしょう。おそらく、今の日本人に対しては利便性よりもセキュリティの万全さを優先したほうが広まる鍵になると思います。

【島田】まったくそのとおりでして、そういう意味ではセキュリティの強化は本当に重要です。話は飛びますが、東芝が量子暗号通信(※6)のような究極のセキュリティを提供しようとしているのも、それらと無縁ではありません。

(※6)量子物理学の原理法則を応用し、データ通信の安全を担保する技術。

【田中】島田社長最大の成長戦略ですね。

【島田】量子の世界は、そうですね。

「ラーメン好き」なのではなく「メガ盛り好き」

【田中】スマートレシートの話に戻らせていただくと、まずはB to C、消費者の利便性を高めるとともに、もう一つの顧客であるB to B、エンタープライズに対しても注力していくと。先ほどダッシュボードのお話が出ましたが、どういう風にデータをダッシュボード化するのでしょうか。

【島田】この領域に興味を持っている会社は200社以上あります。金融関係の会社はその情報を見ることで、地域や会社のトレンドが正確に掴めます。会社が四半期ごとに決算発表する前に、だいたいの傾向を掴むことができる非常に重要なデータです。コンシューマー向けのプロダクトをつくっている会社では、本当に効果があるところに広告を出したり、より正確な商品企画を生み出せるようになるでしょう。ここには特殊なAIを応用しているのですが、今までとは異なる人間のアトリビュート(属性)が分かるようになってきました。

一般的なアトリビュート(属性)には「男性」とか「女性」とか、「ラーメン好き」とかいろいろありますが、AIを用いたところ「ラーメン好き」だと思っていた人が実は「メガ盛り好き」だったことが判明したんです。