【田中】なるほど。

【島田】 AIを通すと「カップラーメン好き」だと思っていた人が実は「特定のメーカーが好き」な人だったり、そういったことが分かるとこれまで以上にダイレクトに商品を企画したり提供したりすることが可能になります。売上データでもそのようなことはある程度分かるかもしれませんが、商品をつくり店頭に並べてから実際に売れるまではかなりのタイムラグがあります。AIにより新しいデータが見えてくると、最終的には店舗の棚に商品が置いていない状態がなくなると思っています。

カップ麺
写真=iStock.com/Yuto photographer
※写真はイメージです

【田中】マーケティングのセグメンテーションの視点からすると、従来のデモグラフィック(※7)のデータよりも有用性が高いのは、どういう行動パターン、心理パターンで購買をしたかということですね。まさに「ラーメン好き」ではなく「メガ盛り好き」というデータにこそ顧客のDNAが本当に見えるわけですね。

(※7)人口統計学的な属性。性別、年齢、居住地域、所得、職業、家族構成などの情報が含まれる。

【島田】これはナノエコノミクスの世界だと思っています。社会学、社会行動学において同様のことを提唱している人がいないのかいろいろな本を読んでみました。経済学は誕生以来ずっと細分化が進んでおり、行動経済学、経済心理学、マクロ経済学、ミクロ経済学などに分かれてきましたが、今の傾向を見るとそれらが全部一本の線、「人」でつながっていることが分かりました。人の行動に対して、どうなのかということをみんな気にしているわけです。

【田中】そうですね、ミクロ経済学はまさにそうですね。

【島田】マクロ経済学にしても、マクロな視点でこういった政策を行えばこういう結果になるということが分かっても、人間がいなかったらなにも変わらないわけです。人間がどういう意味合いで行動しているのかをナノレベルで分析することも、今のデジタル技術でどんどんできるようになっています。ナノ、もしくはアトムレベルといいますか、一個一個のレベルで情報がカプセル化されると、行動が明確にわかってきて、それが経済にどういう影響を与えるかが見えるようになります。

日本企業がGAFAに打ち勝つためには

【田中】なるほど。すばらしいですね。私が2017年に執筆した『アマゾンが描く2022年の世界 すべての業界の震撼させる「ベソスの大戦略」』という本では、「0.1人セグメンテーション」という非常に近い概念を用いています。1人セグメンテーションでも個々に合わせたカスタマイズは可能ですが、アマゾンの0.1人セグメンテーションでは「2022年の10月3日の2時15分になにをしていたのか」といったナノレベルのデータが見えるわけです。そこまで見えてくると新しい事実が判明し、顧客の利便性を高めることが可能になります。

【島田】従来の購買データだけではまったく不十分で、人間の体調や心拍数、行動パターンなどを全部かけ合わせて初めてそのレベルに到達できるでしょう。ナノ経済学については、私たちのデータだけで達成できるとはまったく思っていません。それらのデータがWeb3の世界のように自動的につながっていく。それが完成して初めて、人類の苦労がものすごい勢いで減少していくのではないかと考えています。