「不安だから全部止めてしまう」ではダメ

なによりも重要視しているのはプライバシーとデータに対する考え方ですね。徐々にユーザーの理解度が深まってきていると感じます。日本で起こりがちな良くない現象の一つは、不安だから全部止めてしまうということです。

(※3)毎年10月に開催される、アジア最大級の規模を誇るIT技術とエレクトロニクスの国際展示会のこと。

【田中】オール・オア・ナッシングなところはありますよね。

【島田】たとえば、工場とのネットワークを遮断してデータが漏洩しないようセキュリティを強固にすることは、一方で将来を制限してしまうことにもつながります。ネットワークでつながっていてもセキュア(安全)である。相反する二つを重ね合わせて次に行くことで初めてアウフヘーベン(止揚)(※4)ができるわけです。

(※4)矛盾する諸要素を、対立と闘争の過程を通じて発展的に統一すること。

データの扱いは恐ろしいからタッチしない、もしくはセキュリティを固めてまったく使えないようにしてしまっては駄目です。利便性とセキュリティとプライバシー、これらを並立させるためにはシステムや仕組みだけではなくて、社会的な受容も大事ですので、そのことに対する理解も深まってきたと思います。

ユーザー本人が認識していない情報集めは恐怖だが…

【田中】デジタルでは、利便性・セキュリティ・プライバシーを三位一体で同時に進めていく必要がありますね。プライバシーにおいてはパーミッション(許可)を得ることが必須ですが、プライバシーについての理解が深まってきたというのはどういう意味でしょうか?

【島田】これまでの多くのアプリはユーザーが気づかない間にCookie(クッキー)(※5)などで情報を集めていましたが、そういった手法はNGという認識が一般化してきました。法律に触れない範囲で許諾を取っていたとしても、ユーザー本人が認識していない間に情報を集めるのは恐怖を与えてしまいますし、サステナブル(持続的)ではありません。

(※5)デバイスでWebサイトのWebサーバーへアクセスすると付与される、小さなテキストファイルのこと。CookieにはIDやWebサイトの閲覧情報などが記録され、一時的にユーザー情報を保存することができる。

そして、許諾を取るときに重要なのはユーザーのエクスペクテーション(期待)設定です。ユーザーがある程度想像できることが大切です。例えばバッグなどをウインドウショッピングした後、家に帰ってSNSを開いてそのバッグの広告が表示されると、恐怖を感じることもあるでしょう。しかし、これが実際の店員とショップで会話をして、後日同じショップに足を運んだときにその人が顔を覚えていたらそれは素晴らしい体験だと感じるはずです。デジタルでも対人間でも、自然にユーザー体験がつながっていく。それが次世代のプライバシーデータセキュリティであると考えています。