「顧客の体験価値向上」を起点にサービスを提供する

【田中】プライバシーの保護を優先する姿勢は素晴らしいですね。日本企業はいまだにプラットフォームを先につくってから商品を売ろうとしたり、いきなりデータの利活用から入ろうとしがちですが、デジタルの世界はまずはデジタルで顧客とつながり、パーミッション(許可)を得てデータを取得した上で、顧客の体験価値を向上させる。その結果として業績を上げるのがGAFAの戦略です。顧客の体験価値を向上させるという目的があるからこそ、積極的に顧客はデータを提供するわけです。GAFAも基本的には一つの優れたサービスを提供したから、それがネットワーク効果で結果的にプラットフォームになったのであって、先にプラットフォームありきではないですよね。

【島田】まったくそのとおりです。ユーザー体験ベースで考えないといけません。特にB to B to Cの最後に買い物をするのはコンシューマーです。コンシューマーの体験はどうすればよくなるのか。ある会社に所属していたらその会社の考えに染まりますが、もし自分がそのサービスを受けるとしたらどういうサービスがいいのかを考えるわけです。私は自分の家族の意見をよく聞きますが、ものすごく面白いフィードバックがたくさん来ます。サービスをつくるときの出発点を変えないと、新しい体験をつくることは難しいでしょう。

紙のレシートは必要なくなる

【田中】スマートレシートの利用者が100万人を突破したことで、顧客の体験価値はどう向上し、なぜ広がったのでしょうか?

【島田】一番の理由は使える店舗が増えたことです。使える店舗が少ないだけで体験価値は下がりますからね。紙も減ってカーボンニュートラルにもなりますから、Z世代は興味を持ってくれます。現在注力しているのは、各店舗のポイントカードとの紐づけです。今はいろいろなポイントアプリがありますので、そこと連動すればスマートレシートもそのアプリ内で確認できるようになります。普段の買い物の中にシステムを自然に組み込むこと。これが重要です。

【田中】スマートレシートは、物理的なレシートが不要になり、自分のスマホの中で見ることができるということですよね。利用者は、どう利便性が高まっているのでしょうか?

田中道昭氏
写真=デジタルシフトタイムズ
田中道昭氏

【島田】普段の買い物に組み込まれているので、意識することなくスマートレシートのサービスを利用できます。後日、買い物の内容を簡単に確認できますし、やはり買い物における一連の行動に組み込まれていることが浸透した大きな理由ですね。

【田中】物理的なレシートは整理するのも大変ですから、後でスマホで、時系列で確認できると便利ですね。