「40代以上の世代には、ウイスキーをずっと飲み続けている方々もいるんです。でも若い世代には、『オヤジ臭い』『アルコールがきつく、飲みにくい』『食事に合わない』という最悪のイメージが定着していて、ごく普通にみんなが飲みにいく居酒屋では、誰も頼まない飲み物になってしまっていました」

そう語るのはサントリー酒類、スピリッツ事業部ウイスキー部課長の田中嗣浩さんだ。自身も根っからの洋酒党で、ウイスキーには人一倍の思い入れがあった。

サントリー ウイスキー部課長
田中 嗣浩

1970年生まれ、神奈川県横浜市出身。早稲田大学卒業。93年4月、入社。99年10月、広域営業本部。2004年4月、洋酒事業部09年4月、ウイスキー部課長。午後5時からが仕事の本番!ハイボールを毎日飲み歩く。

「私は2004年に現部署に異動してきたんですが、当時からウイスキー市場全体がすごい縮小傾向にあって、どこへ営業しても見向きもしてもらえませんでした。居酒屋さんにお願いしても、『どうせ置いたって売れないから』とメニューにも載せてもらえない。大手スーパーさんでも陳列棚がどんどん小さくなって、理由を聞くと『一週間に一本売れるかどうかだよ』とか。世間的に忘れられてしまっていて、私自身も外でウイスキーを飲んでいる人を見ると、ひょっとしてサントリーの社員では? と疑ってしまうほど(笑)。私と飲みにいくときだけはウイスキーを注文してくれる同僚もいましたね」

そもそもサントリーはウイスキーづくりから創業した会社だけに、「ウイスキーは家業だ。このままではマズいよなぁ」という気持ちを多くの社員が共有していたという。それでもニーズがなければビジネスは広がらない。顧客の需要はビールを中心とした売れ筋に集中しており、ウイスキー人気はどうやっても復活しなかった。

「『なぜ売れないのか』をあらためて検討してみると、ウイスキーは“2軒目需要”になっていたんです。外に飲みにいくとき、普通はまず居酒屋やレストランで食事と一緒にビールやワインを一杯飲んで、2軒目のバーなんかでようやくウイスキーが選択肢に入ってくる。この時代に、それじゃ新しく愛飲者が増えるわけがない。とにかく1軒目に食い込まなければ、ウイスキーの復活はないと考えたんです」

そこで、市場調査をゼロベースで行ったところ、まったく予期しなかった驚愕の結果が生まれた。

「我々がよかれと思ってお勧めしていた飲み方は、お客様には濃かったんです。水割りやロックで、アルコール度数が大体12%くらい。それが美味しいと思っていたし、先輩からもずっと伝わってきた黄金比だったんですけれど、実際に消費者に聞いてみると、はるかに薄い8%くらいのものが一番美味しいといわれる結果が出た。そこにレモンを軽く搾るのがとても好評だったんです。このレモンを搾るっていうことが、我々には全然考えつかないことだったんですよ。ウイスキー自体の味が消えてしまうと思っていて。これまでメーカー側で正しいとされてきたスタイルとは全然違う、新しい飲み方をお客さまは欲していたのです」