夜7時半頃、秩父警察署から電話が入った。すぐに来てほしいという。佐々木常夫は不安と恐怖で胸が張り裂けそうになりながら、2時間かけて向かった。長女が長瀞の川近くの山から飛び降り自殺を図ったのだ。幸い、下が砂地で命拾いをした。もし、岩場だったら取り返しのつかないことになっていただろう。

「自分と家族を支えてくれ、戦友とさえ思っていた娘がなぜこんなことを」

東レ経営研究所特別顧問
佐々木常夫

1944年、秋田県生まれ。69年、東京大学経済学部卒業後、東レに入社。経営革新プログラム担当、繊維の営業、プラスチック事業企画管理部長などを経て、2001年に同期トップで取締役。03年、東レ経営研究所社長に就任。10年より現職。

佐々木は深い衝撃を受けた。その晩、泊まった秩父のホテルでは眠れずに、娘への思いを会社の資料の裏に書いた。その手紙には、自分がどれほど娘を愛しているか、2人でいかに家族を支えてきたか、そして自分で命を絶つことは絶対に許されないこと、などを書き綴った。