50代の転職は不利なのか。健康社会学者の河合薫さんは「50代では正社員になれない、転職すると給料が下がる、資格や専門的スキルがないと厳しい、といった噂は誤解であることを示す調査結果がある。転職という選択肢を自ら放棄するのはもったいない」という――。

※本稿は、河合薫『50歳の壁』(MdN新書)の一部を再編集したものです。

ぼんやり外を眺めるビジネスマン
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「こんなはずじゃなかった」50代の嘆き

退職金が割増しされるうちに、会社に見切りをつけるべきか?

はたまた70歳雇用義務化で揺れ動く人事部の動向を見極め、留まるべきか?

50歳の会社員にとって、転職は最大の悩みごとと言っても過言ではありません。

しかし、周りを見渡してみると50代の転職は……かなり微妙。特に、社会的地位の高い会社に勤めていたり、そこそこ出世したエリートほど、「こんなはずじゃなかった」と嘆いているという“噂”が聞こえてくる。そこでよく聞かれるのが、「転職はするも地獄、しないも地獄と聞きますが、どっちが得なんでしょうか?」というお悩みです。

「どちらでもお好きに。あなたの人生なんですから」とは、さすがに言えません。なにせみんな本当に悩んでいるのです。一方で、人は首尾一貫性を好む傾向があるため、多くの人が「できることなら現状を変えたくない」というのは、ある意味、自然の摂理です。だって、楽ですから。変えないのがいちばん楽。

かといって会社に残るという選択をして、「働かないおじさん」扱いされたり、会社にしがみつく老害社員と揶揄されたくない。転職はするも地獄、しないも地獄……。「私」はどうすればいいの? と、禅問答が続いていくのでしょう。

転職者と非転職者とを比較した調査

そこで、ここでは「悩めるおじさん子羊たち」をがんじがらめにする噂に、答えてくれそうな調査結果を紹介します。

報告書のタイトルは「ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成~転職者アンケート調査結果~」。政府が「骨太方針2019」(「経済財政運営と改革の基本方針2019~『令和』新時代:『Society 5.0』への挑戦~」)でうたっている、中途採用・経験者採用の促進を実現するための資料として企画・実施された調査です。

この調査の最大の“ウリ”は、年齢別の分析に加え、転職者と非転職者とを比較した点です(※)。(以下は主に男性の結果)

※転職経験者―4205人。調査開始(2020年12月)までの3年間に、転職の経験がある30歳以上55歳未満の男女。フルタイムで働く、正社員および非正社員。かつ従業員数50人以上の企業に勤める人
転職未経験者―2498人。転職の経験がない30歳以上55歳未満の男女。フルタイムで働き、従業員数50人以上の企業に勤める人