同年6月に就任したウクライナのポロシェンコ大統領はロシア側との紛争に危機感を強め、国民の連帯を促した。だが、その呼びかけはハンガリー系住民にも意外な形で波及する。ハンガリー民族政党「ハンガリー文化同盟」のブレンゾビッチ党首は言う。

「2014年以降、ポロシェンコ氏はメディアを使い、外国人を敵とするプロパガンダを流し始めた。最初は国内にいるロシア系住民だけが対象だったが、続いてハンガリー系住民も攻撃対象になった」。

極右団体は「ロシアだけでなく、ハンガリーもウクライナの領土を奪おうとしている」と主張。ザカルパチア州では、ハンガリー人の「処刑」を訴えるデモが繰り返されるようになった。2018年、ハンガリー文化同盟が入る建物は2度も放火された。

さらにウクライナ政府は2017年、小学5年生以上の子供に対し、ウクライナ語の学習を義務づける法律を制定した。多くのハンガリー系住民はハンガリー語の学校に通っていたため、オルバン氏は強く反発した。ウクライナ政府に対抗するため、クリミアの編入を理由にEUから制裁を受けているロシアのプーチン大統領と手を組んだのだ。

ロシアに同調する歴史問題の根深さ

ウクライナは欧州諸国の一員となるため、NATO、EUへの加盟を宿願としている。だが、両組織への加盟は全加盟国の同意が必要だ。NATO、EUの加盟国であるハンガリーは、ウクライナの加盟に強く反対し始めた。ウクライナが両組織に入った場合、自国への脅威が高まると考えていたロシアに同調したのだ。

三木幸治『迷える東欧 ウクライナの民が向かった国々』(毎日新聞出版)
三木幸治『迷える東欧 ウクライナの民が向かった国々』(毎日新聞出版)

2019年10月に開かれたNATOとウクライナとの協議ではこんな一幕もあった。ハンガリーは当初、双方の連携を促進する共同声明に反対。声明は全会一致での採択が必要だったため、最終的には「少数民族の権利保護」を文言に入れることで折り合った。

ウクライナのハンガリー系住民は、オルバン氏の意向に従い、本気で自治権を獲得しようとしているのだろうか。筆者の質問に、ハンガリー文化同盟のブレンゾビッチ氏はこう答えた。「ウクライナ政府はもう信用できない。我々は自分たちのことを自分たちで決める」。オルバン氏の「反ウクライナ」の姿勢は、大ハンガリー主義を巡って既に明確になっていたのだ。

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