「第2の天安門事件」までは進展しないはず
こうした中、中国国家統計局が11月30日、11月の製造業購買担当者景況指数(PMI)を公表した。それによれば、生産、新規受注、雇用などすべての指数が、景気拡大と縮小の節目となる50を下回っている。これは、「ゼロコロナ」政策が、中国経済にとってマイナスに作用していることを意味するものだ。
特に若者にとって、仕事がない、就職できない、気晴らしに外にも出られない、声を上げる自由もないという状態はかなりのストレスで、「抑圧されている」と感じるはずだ。
では、今回の抗議行動は「第2の天安門事件」へと進展してしまうのだろうか。筆者はそこまでには至らないと見ている。
かつて香港で、毎週末、大規模なデモが繰り返されたように、2週目、3週目の週末を見なければ何とも言えないが、筆者は、警戒態勢と検閲の強化によって、事態が最悪の状態に陥る前に収束する(収束させられる)のではないかと思う。
閉塞感に駆り立てられた、リーダー不在の行動
今回の抗議行動にはリーダーが存在しない。香港で2014年に起きた民主化要求デモ「雨傘運動」や2019年に始まった大規模な反中国デモには、黄之鋒氏や周庭氏といった若き先導者がいた。
しかし、「ゼロコロナ」政策に対する抗議行動は、新疆ウイグル自治区ウルムチ市で起きた高層住宅火災をめぐり、「ゼロコロナ」政策が敷かれていたため避難や消火が遅れたとするSNSへの投稿が発端にすぎない。
東京・新宿駅で抗議行動に参加した中国人に聞けば、こんな言葉が返ってくる。
「中国では誰がいつどこへ行ったか把握されています。建物に入るたびにQRコードをスキャンしなければなりません。ある日、突然、住んでいる地域が封鎖されたりもします。何より中国に戻っても仕事がないのがつらいです」
つまりは、「ゼロコロナ」政策に伴う閉塞感や景気後退による将来への不安が行動に駆り立てたということだ。裏を返せば、習近平指導部が方針転換をしない範囲で、規制を緩めるなどの餌をまけば収束に向かう可能性は高い。
1989年の天安門事件が民主化という大掛かりな要求だったのに対し、今回の抗議行動は「ロックダウン解除」とか「煩雑な手続きの簡素化」といった小さな要求によるものだ。
この小さな要求が民主化要求とリンクすれば事態が深刻化することもあり得るが、そうならなければ、やがて沈静化へと向かうと筆者は見ている。