「おい、クラウドって雲のことか? ITの連中が言っていることは、意味がさっぱりわからん」と部長が苦々しい表情をしている。そういうとき、どこからともなく現れるのが、システム担当の木村君だ。
「クラウドなんて、珍しく難しい話をしてますね。ネットワークの構成図を書くときに、インターネットの部分を雲の絵で表現する習慣があって、それでクラウドといえばインターネットとかネットワークを意味するようになったんです。どこか遠くにあるモヤモヤとしたものというニュアンスもあるんでしょうね。例えば電話も自分の電話機と相手の電話機は意識するけど、その間の仕組みなんて、我々にとっては、何だかよくわからないモヤモヤの雲でいいわけで、それと同じですよ」
「そんなモヤモヤした用語、誰がつくってるんだよ」
「さあ……。ともかくそのクラウドを主軸にしたコンピューター利用が、クラウドコンピューティング。クラウド利用で提供されるサービスがクラウドサービスです。ちょっと前に、SaaS(サース)っていう言葉が流行りましたが、似てますね」
「ああ、あれか」と部長が乗り出した。「あのせいで俺は海外出張が中止になったんだよ、楽しみにしてたのに。ハクビシンか何かが感染源っていわれたが、動物もパソコン使うのか」。
「そんなことあるわけないじゃないですか! あっちは重症急性呼吸器症候群のSARS(サーズ)です。私が言っているのは、ソフトをサービスとして使う形態を指すSaaSですよ」
「また妙な大文字・小文字かよ。で、そのモヤモヤ雲のサービスは、つまり電気みたいなものか。確かに電気が使えればいいわけで、自宅に発電所がなくても困らないしな。しかも、無料なら助かる」と部長はコスト削減効果に関心を示している。