まず、(a)公然と、という要件(公然性)が共通していますが、これは、不特定または多数の者が認識可能であることを言います。そのため、メールやSNSのDMなどで行われる1対1のやりとりは公然性を欠き、原則として名誉毀損にはあたりません。ただし、特定少数の者に向けられたものであっても、そこから不特定または多数の者に広がっていく可能性(伝播性)があれば、「公然と」にあたると理解されています。
次に、(b)事実の摘示の有無が両者で異なっています。事実の摘示とは、具体的な内容のある事実を示すことを言います。たとえば「AさんはBさんが描いたイラストを自分が描いたものとして公表している」といったものです。
「絵がヘタクソ」は主観的な評価なので事実の適示とは言えない
事実の摘示かそうでないかの見極めは必ずしも容易ではありませんが、証拠によって事実の有無を判断できる内容であれば、事実の摘示にあたると考えてよいです。
他方、「Aさんが描いたイラストはヘタクソ」は、ヘタクソかどうかは主観的な評価にすぎず、証拠によってその有無を判断できるものではありませんから、事実の摘示とは言えません。
なお、摘示する事実は真実であっても虚偽であってもかまいませんが、後述のとおり、真実の場合は、名誉毀損罪の要件を満たしていても適法になる可能性があります。
(c)の要件も異なっているように見えますが、「人の名誉を毀損」することも、「人を侮辱」することも、いずれも特定人の社会的評価(世間や周囲という外部から受ける客観的評価)を低下させることを意味すると理解されています。
特定人の社会的評価を低下させるものである必要があるので、誰のことを指しているかわからない表現や、特定の属性の集団(たとえば、「オタク」)に対する表現では、名誉毀損罪も侮辱罪も成立しません。
以上を踏まえると、名誉毀損罪と侮辱罪の定義・要件は、事実の摘示の有無のみが異なっていることになります。