民事上の名誉毀損と侮辱の違い

今度は民事上の名誉毀損と侮辱です。

・名誉毀損……公然と、人の社会的評価を低下させる内容の表現行動をすること
・侮辱(名誉感情侵害)……社会通念上許容される限度を超える侮辱行為のこと

まず、名誉毀損については、公然と人の社会的評価を低下させることという点では刑事上の場合と同じですが、その方法は事実の摘示に限定されません。意見や論評による場合にも、名誉毀損が成立します。刑事上の名誉毀損にあたらない場合でも、民事上の名誉毀損にはあたる場合があるということです。

民事上の侮辱は、これまでのものと大きな違いがあります。民事上の侮辱以外は、いずれも、社会的評価(外部的評価)を低下させる行為でしたが、民事上の侮辱だけは、名誉感情(その人にとっての内心的な名誉)を侵害する行為です。ただし、「社会通念上許容される限度を超える」場合のみが違法な名誉感情侵害(=侮辱)にあたります。

「社会通念上許容される限度を超える」かどうかは、個別の事情に基づいて判断する必要があるので、具体的に線引きをすることは難しいですが、たとえば、「バカ」「アホ」といった程度では、「社会通念上許容される限度を超える」と判断されることはあまり考えられません。

名誉毀損が成立しないケースもある

名誉毀損の場合、民事上も刑事上も、先ほど見た名誉毀損の要件は満たしていても、一定の要件のもとで、名誉毀損が成立しなくなる場合があります。このような場合を「成立が阻却される」と言ったり、「成立阻却事由が認められる」と言ったりします。

以下の要件を満たすときは、名誉毀損は成立しません。

事実を摘示する場合(民事・刑事共通)

(a)公共の利害に関する事実に係り、
(b)もっぱら公益を図る目的で出た場合に、
(c)摘示された事実の重要な部分が真実か、真実と信じるに足りる相当な理由が存する場合

意見・論評による場合(民事の場合のみ)

上記の(a)(b)に加えて、

(c’)意見・論評の前提になっている事実が重要な部分について真実であるか、真実と信じるについて相当な理由が存するときに
(d’)人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものでない場合