家族や医療者ではなく「患者さんの最善の利益」を求めるべき
欧米のほか、歴史的・文化的な背景の近いアジアでも、台湾や韓国は25年近く前から、患者本人の希望があれば積極的延命をしない方向になっており、法的にもそれが保証されてきています。
台湾では、2000年に「安寧緩和医療法」という尊厳死を法的に認める法案が100%の賛成で可決しています。台湾でも尊厳死法制化の前は、終末期の人に対して心臓マッサージ、人工呼吸、人工栄養、点滴などの処置が行われていたそうです。しかし現在は患者本人、または代理人のリビング・ウィルがあれば、延命治療の非開始も中止も、どちらも合法になりました。
また台湾には「終末期退院」と呼ばれる慣行があり、本人が希望すれば病院で緩和ケアを受けることも、自宅で在宅ホスピスを受けることもできるようになっています。一方の韓国では、終末期医療中止等を法的に認める「ホスピス・緩和医療および終末期患者の延命医療の決定に関する法律」が2016年1月に可決成立。2018年に施行されました。
患者さんの意思表明については「事前延命医療意向書」を作成し、登録します。登録先の医療機関やリビング・ウィル事業者を管理する、国立延命医療管理機関も設置されています。私も以前、海外の終末期患者のための病室を見学したある先生の講演で次のようなことを聞きました。
そこは天国に一番近いという意味で病院の最上階にあり、室内の内装も、天国や極楽浄土を思わせるような明るく、居心地のいい雰囲気になっていました。そこでお年寄りたちは家族と自由に交流をしたり、苦痛を取り除くケアを受けたりしながら最期の日々を過ごすのです。病院で亡くなるにしても、こうした環境と適切な終末期医療・ケアがあれば、その人らしい尊厳のある死を実現することはできるのです。
世界一の超高齢社会である日本でも、家族や医療者が納得するための終末期医療ではなく、「患者さんの最善の利益」のための終末期医療が整備され、広まっていく必要があるのはいうまでもありません。