原作マンガはキャラクターの「原案」でしかない

Q 原作マンガがあればキャラデザいらなくない?

【シンジ】でも監督、マンガをアニメにするときは、すでにキャラはできているんじゃないですか?

【ユーリ】確かに。『残光のキビカ』をアニメにするなら、マンガのキャラをそのままトレースすればいいよね!

【監督】フッ、これだから素人は。

【ユーリ】し、素人だから勉強しているのだ!

【シンジ】これについては同意!

【監督】ごめんごめん。確かに『残光のキビカ』のようにマンガ原作がある場合は、すでにキャラクターのイメージはできあがっています。魅力的な絵だよね。でもこれは、アニメ制作においては「キャラクター原案」であって、そのままアニメのキャラクターとして使うことができないんだ。

【ユーリ】どうして !? 私、マンガの絵が好きだから、変更されるのイヤ!

【監督】キャラクターデザインというのはつまり「キャラクターの設計図」のことなんだ。なぜそんなものが必要なのかというと、多くのアニメーターが分業して描くので、しっかりとキャラクターを設計図のように決め込む必要がある。頭身のバランスや表情や顔のバランスはもちろん、衣装や付属しているアイテムなどもそうだけど、「このとおり描いてください」というお手本がないと、どうなると思う? 各アニメーターがマンガを見て独自に解釈して描いた場合、びっくりするくらいバラバラの絵が上がってきてしまう。

【シンジ】そっか。そういえば前に学校で『残光のキビカ』のキャラを友だちと落書きしたんですが、同じキャラを描いているのに全然違う絵になっていました。

【ユーリ】それ、よくある!

【監督】そうならないように用意するのが「キャラクターデザイン」です。画力の問題もあるけど、クセも強く出てしまうので、やはり「このとおり描いてください」というお手本が必要なんです。

【ユーリ】なるほどー。

高橋優也作『残光のキビカ』。テレビアニメ用に作られたキャラクターデザイン(左)と原作マンガ(右)。
アニメ用に作られたキャラクターデザイン(左)と原作マンガ『残光のキビカ(高橋優也)』(右)。(大塚隆史、堀田孝之、フナヤマヤスアキ『アニメができるまで』より)

セーラームーンの絵柄はなぜ原作と違うのか

【監督】また、アニメは「動く」から、動かしやすいデザインにする必要もあります。

【ユーリ】は? 意味不明。

【シンジ】マンガの絵とは違うということですか?

【監督】そうです。マンガの絵というのは、まず作画の線が多い。線が多いと、アニメーターたちが一枚一枚絵を描いて、キャラに芝居させるとき、すごい手間になる。だから、マンガ原作の魅力を損なわないように、魅力がより際立つように、アニメでも使える線にデザインし直すのがキャラクターデザイナーには求められる。たとえば2人は、『美少女戦士セーラームーン』を観たことあるかな?

【ユーリ】お母さんが好きで、ちっこい頃、シンジとよく一緒に観てた。

【シンジ】そんな時代もあったね。

【監督】セーラームーンの原作マンガとアニメは、絵がかなり異なっているんだ。マンガだと、まるで絵画のように緻密に描かれているのだけど、その絵をそのままアニメに使うのは不可能。

【シンジ】なるほど。

【監督】だからアニメでは、キャラクターの魅力はどこにあるのかポイントを絞り、線をできるだけ減らしている。その結果として、セーラームーンはアニメとマンガで、かなり印象の異なるキャラになっているんだ。これが原作マンガ。

【ユーリ】ほんとだ! ぜんぜん違う! (ネットで検索してみてね!)