『モダン・タイムス』の経理資料を渡して『白雪姫』を支援した

アニメと言えば短編作品しかなかった当時、前代未聞の長編アニメの企てには誰もが反対しました。しかし、そんな中でチャップリンだけは彼を応援します。そして、長編作品の極意として「主人公に感情移入するためのストーリーの大切さ」を伝授しました。

ディズニーはストーリー会議の時にスタッフの前ですべての役を演じて見せるのが常だったのですが、彼の演技はチャップリンそのものだったと側近たちは証言しています。

創作面だけでなく、ビジネスについてもチャップリンは多くのことを授けました。『白雪姫』はあまりに大胆な企画ゆえ配給の交渉が難航したのですが、チャップリンは「これを参考にしなさい」と『モダン・タイムス』の経理書類一式を見せて、ディズニーはその通りに映画館と交渉して映画は大ヒットしました。

経理上の秘密を開示したことには驚きますが、惜しげもなく伝授したことで業界全体を盛り上げてパイを大きくしたわけで、先輩ビジネスマンの心得のようなものも感じます。

師弟が生み育てた映画界のキャラクター・ビジネス

その後、このエンタメ界の師弟は二人三脚で映画界に新しいビジネスを興すことになります。

チャップリンは1917年に、自身の模倣俳優(ものまね芸人)たちを相手取って訴訟を起こし、「かの扮装ふんそうはチャップリン氏の産み出したオリジナルなものである。今後、チャップリン氏の模倣を許可なく行なうことを禁止する」という判決を勝ち取っています。つまり、世界で最初にキャラクターの肖像権を認めさせた人物なのです。

ウォルトはそのノウハウを受け継いで、ミッキーマウスをはじめ多くのキャラクターでグッズ販売を展開します。早くも1930年代前半に、ディズニー社ではグッズ販売が映画の興行収入を超えるまでになりました。今や一大産業となっているキャラクター・ビジネスはチャップリンが発明し、ディズニーが大きく育てたものだったのです。

チャップリンとディズニーの蜜月は続きます。ディズニー作品にはアニメ化されたチャップリンがゲストとして頻繁に登場しました。『ミッキーのポロチーム』(1936年)は、ミッキーやドナルドダックらディズニーのキャラクターと、チャップリン率いる映画スターのチームがポロゲームで戦うという楽しい短編。アニメのチャップリンは、ステッキが引っかかって落馬しそうになるなどのギャグを披露しています。

対して、チャップリン映画の中にもミッキーマウスが登場しています。『モダン・タイムス』の、真夜中のデパートで遊ぶシーンで、ヒロインのポーレット・ゴダードがミッキーのぬいぐるみを抱き上げる場面です。チャップリン作品で他のキャラクターが登場するのは例がありません。いかに両者がリスペクトし合っていたかがわかります。

プライベートでも二人で競馬観覧を楽しむなど(その際に、チャップリンは次回作の構想を語りその場で演技を始め、周囲の客は競馬などそっちのけでチャップリンの演技に夢中になった)友好関係は続きました。