結果的に中途半端な存在になってしまった可能性…

ここで私は1台の車を思い出した。2015年に発売されたボルボのS60クロスカントリーである。

アメリカでは減少傾向とはいえ、独立したトランクを持つセダンには一定の需要があり、セダンに流行のSUVのデザイン要素を加えてヒットを狙ったのがS60クロスカントリーだった。

しかしS60クロスカントリーはぜんぜん売れなかった。一番売れた2016年で563台。その年、普通のセダンのS60は1万4219台売れ、SUVのXC60は2万431台売れているのだ(すべてアメリカの販売台数)。

セダン指向層はあくまでオーソドックスなセダンスタイルを求め、SUV指向層は多用途性に優れたSUVを求めているのだ。そもそもSUVのUはユーティリティーである。

この事実から考えると、クラウン・クロスオーバーは斬新なスタイリングにより発売当初は売れるものの、スタイリングが見飽きられた頃には非常に厳しい状況に追い込まれるのではないかと危惧する。

新型クラウン試乗会会場にて
写真提供=筆者
新型クラウン試乗会会場にて

社内事情が足かせに

クラウン・クロスオーバーは、マーケットニーズを重視するトヨタとしては珍しく社内的な事情で生まれてしまった車種のように感じる。どこに問題があったのか。

一番重要なポイントは、クラウンとは何なのか、という定義付けの問題である。トヨタはクラウンを「高級セダン」と定義したのだ。新しい時代のセダンはどうあるべきか、と考えてしまったのだ。

つまり、車型を固定したうえでスタイリングによって新しさを出そうとしたのである。私はここに根本的な間違いがあったと思う。セダンであるならば、求められているのはフォーマル性である。機能というよりも「様式」だ。服でいえばスーツのようなものだろう。

クロスオーバーを開発したものの、結局オーソドックスなセダンを追加することになったのは当然の成り行きだと思う。セダンという足かせをかけておきながら、まったく新しいものを作ろうとしたことに無理があった。

結果、高級セダンでありながらカジュアルさ、スポーティーさを感じさせるものとなったのである。