名刺で自分が支援する団体を表明できる時代にしたい

――「ルーム・トゥ・リード」に関わって2年半。振り返ってみてどうですか。

1年目は記憶にないくらい(笑)。スピードがとにかくはやい。

――それは自分でスピードを早くしているのではなく?

時代もありましたが、それまでどちらかというと紙中心だったので、完全ペーパーレス、電話会議やメール中心のコミュニケーションなどにも慣れていませんでした。加えて、団体立ち上げ当時、日本人は私ひとりだったので、とにかく私がやらなくてはならないことが多かった。事務所探し、社会保険、ペイロール、法人申請、同時に資金調達も……。わからないことばかりのなか、本部は日本のことをまったく知らないし、つべこべ言っていられず、とりあえず自分で調べてアタックせざるをえない状況でした。おかげで、いまではたくさんのプロボノのサポーターがいます。

私は人生の中で、長期的に計画をしてこのスキルを身につけてここにいきたいという進み方をしたことがないんです。ただ出会う人に恵まれ、人とのご縁で、いまがあります。

――今後はどうしますか。

NPOのポジションが、日本とアメリカでは全然違いますよね。象徴的なエピソードをお話すると、私の同期入社が本部でほかに二人いたのですが、ひとりは前職からNPOのベテラン。ファンドレイズだけを専門にしている方でした。そしてもう一人はゴールドマンサックスからの企業派遣で1年、給与も所属会社から出る形式でいらしていて、CEOの右腕として手腕を発揮していました。こうみると企業と変わりません。こういう人材が入ることで、活動が非常に活発になります。ちなみに後者の女性は企業派遣が終わった1年後、なんとゴールドマンサックスからルーム・トゥ・リードに転職してしまいました。

アメリカの場合、両者間が一方通行ではなく行き来がある。NPOを経て民間にもどり、MBAを取ってというように、キャリアステップの一環として機能しています。反対の側面から見ると、「ルーム・トゥ・リード」もうかうかしてはいられず、人材をつなぎとめられるような魅力的な団体で居続けられるようにしなくてはいけないのですが。実際に、人材の流動性は日本企業どっぷりだった私からすると、びっくりするほど高いです。

いまは漠然としか考えていないですが、今後は日本においてNPO全体の底上げをしていきたいと思っています。事例をつくって資金をあつめるノウハウも他団体に伝えていきたい。

実は私はこの団体だけはなく、別にもう2団体を個人的に支援しています。気になる活動をしている団体があったら得意分野を生かして気軽にそこへ乗っかれるような体制、個人の名刺に自分が支援する団体、つまり認識している社会課題を表明できるような時代が到来したら素敵だなぁと思っています。

最後に、これまでリーダーシップや組織運営などとは無縁だったので、私がこうしてやれているのは、寄付者をはじめとても優秀なボランティアサポーターの皆さんのおかげです。ルーム・トゥ・リードは、こういった支援者の皆さんが主役の組織であり、私の大事な宝物です。

――本日はありがとうございました。

 

<柴田からの提言>

寄付してもらう、というのはとっても大変な行為だと思います。ややもすると引け目を感じてしまうもの。そこを「機会の提供」とすっきり言い切れる強さが松丸さんにはあります。わからないことに直面しても、誰かに聞けばいい。笑って飛び込んでいける潔さ。ここに転身を成功させるヒントがあります。

次回はゼネコンの営業から心機一転リセット。表参道の美容サロン経営者への転身記です。

(柴田励司=聞き手 高野美穂=構成)