経済指標が示す以上に実態は厳しいようだ

しかし、1990年代以降、直接投資の誘致策が強化されるなどして中国経済の成長率は急速に高まった。その後、約30年にわたって中国経済は高成長を実現した。2015年には、産業強化策である“中国製造2025”が打ち出された。産業補助金政策に支えられて車載バッテリー最大手のCATL(寧徳時代新能源科技)などが急成長し、雇用が生み出された。

ポイントは、部分的に市場原理を導入したものの、共産党は一貫して実体経済と市場に対する統制を強めたことだ。あくまでも経済成長を牽引するのは党の指導力であるという考えが徹底された。

しかし、未来永劫、経済が高い成長を維持することはできない。2018年に入り前年秋の党大会のために実施された公共事業が縮小された。その後、想定以上のペースで中国経済は減速した。その背景には、需要を上回る投資が実行され、資本の効率性が急速に低下したことがある。3つのレッドラインによる不動産バブル崩壊は、状況をさらに悪化させた。

また、国連は中国の人口が減少に転じたと推計している。中国は、人口増加が経済成長を支える人口ボーナスの時代から、生産年齢人口の減少などが経済成長を阻害する人口オーナスへ足を踏み入れつつある。各種経済指標が示す以上に、中国経済の実態は厳しいと考えられる。

中国重慶市江北区のマンション群
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「格差拡大」の批判を恐れる習近平政権のジレンマ

経済の実力である潜在成長率は、労働の投入量と資本の投入量、およびそれ以外の要素(全要素生産性、イノベーションに相当)に規定される。中国では、労働力が減少している。資本も過剰だ。需要を上回る鉄道建設とゼロコロナ政策による利用者減によって、1~6月期の中国国家鉄路集団の最終損益は赤字だった。インフラ整備など投資による波及需要の創出は、一段と難しくなっている。

本来であれば、共産党政権は債務問題が深刻になった企業や金融機関に公的資金を注入し、不良債権の処理を進めなければならない。その上で、規制を緩和するなどして成長期待の高い先端分野に生産要素を再配分することが求められる。

しかし、貧富の格差拡大がそれを阻む。国民は、公的資金注入によって共産党政権が民間企業の創業経営者を助け、不良債権処理によって企業倒産と失業が急増するとの見方を強めるだろう。“共同富裕”を掲げる習政権にとって、そうした取り組みを進めることはかなり難しいのではないか。