がんは治癒効果が患者によってぜんぜん違う
先生の立場からすれば、抗がん剤治療を続けたほうがいいというのが基本的なスタンスになるんだと思います。それでも、こんなふうにも話してくれました。
「抗がん剤治療を続けたからといって絶対に再発しないとは言えません。やらなかったからといって再発するとも限りません」
そして先生はこう続けられました。
「がんは、患者それぞれみんな違うので治療効果のエビデンスがとりにくいんです。あるクスリが大腸がんの患者に効果を発揮したとしても、別の患者にも効くかはわかりません。個人個人の結果を見るしかないので、治療をどうするかは最終的に患者さん自身が決めるべきだということになるんです」
日本だけでも新規のがん患者は毎年100万人を超えるようになっていながら、まったく同じ状態の患者はいないそうです。そのため、同じ治療を行っても効果のあらわれ方には違いが出てくるということです。
生存率などの数字にしても、あくまで参考レベルにしかならないそうです。
「抗がん剤に殺される」とつぶやいた真意
そういう話を聞いたからってわけではないけれど、抗がん剤はやめようと決めてからは、気持ちは揺らがなかった。
それだけ5セット目の落ち込み方はきつかったんです。
痛い、苦しい……ということなら我慢できたと思うけど、このときは“二度と立ち直れなくなるんじゃないか”というくらい精神的に削られました。
つらくてうずくまってしまい、「このまま動けなくなるんじゃないか」という不安に駆られたこともあるほどです。
この段階では体の中にがんはなくなっていたのに、このまま抗がん剤治療を続けていれば、取り返しがつかない状態になってしまうのではないかと感じていました。それが「抗がん剤に殺される」という言葉になっていたんです。
だからといって、抗がん剤治療を否定するつもりはまったくありません。実際にオレは、途中までとはいえ、抗がん剤治療をやったことで、がんを小さくして転移を止めて、手術ができたんですから。
最初から抗がん剤治療を拒んでいたなら、いま頃どうなっていたかはわかりません。そういう意味でいっても抗がん剤治療を受けてよかったと思っています。だけどこのときは、あと3セットやるメリットよりリスクのほうが大きいんじゃないかと自分で判断しました。
そう判断せざるを得ない状況になっていたということです。
参考のために書いておけば、抗がん剤をやめる理由になったわけではありませんが、このときは髪の毛もずいぶん抜けました。吐き気とかもそれまでにないほどきつかったので、よく聞かれるような副作用が一気に全部きた感じだったんです。