5月26日(土) 新宿バルト9他 全国ロードショー
主人公の鈴本(いとうたかお)は、都会の公園で暮らす中年のホームレス。廃材とビニールシートでつくった「家」で、パートナーのスミ(石田えり)と暮らしている。磁石で拾い集めた釘、捨てられている家電製品、自動車用バッテリー……「街の幸」に目を止め、工夫を加え、鈴本はほぼ0円で生活している。 鈴本は、食料品やコインランドリーの代金に、街に捨てられたアルミ缶を拾い集めて換えたおカネを使う。アルミ缶集めが鈴本の仕事だ。ラブホテルの社長(板尾創路)と交渉し、ホテルから出る空き缶を手に入れる。ある家のゴミ捨て場に置かれる缶を回収し、代金がわりにゴミ捨て場を掃除する。その家の中では、潔癖症の主婦トモコ(木村多江)が毎日毎日掃除をしている。その街には、エリート進学塾に通う中学生ショータ(村田 勘)がいる。交わるはずのなかった彼らの暮らしが、ある事件をきっかけに交錯していく──。
「MY HOUSE」
原作=坂口恭平『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)、『隅田川のエジソン』(幻冬舎文庫)
原案=堤 幸彦 脚本=佃 典彦 監督=堤 幸彦
©2011「MY HOUSE」製作委員会 配給:キングレコード/ティ・ジョイ
「MY HOUSE」オフィシャルサイト http://myhouse-movie.com/
ホームレスの「家」の中はきれいです
三浦 主人公のホームレス、鈴本さんの家の中は、きれいですよね。
堤 ええ、きれいです。
三浦 かつ、モノにあふれている。
堤 モデルになった実在の人物、鈴木さんの家の中の完コピです。
三浦 つまり「MY HOUSE」は、けっしてモノや所有を否定しているわけでは、ない。
堤 そうですね。
三浦 鈴本さんのパートナーの女性は、スーパーで1万円も食料品を買ってきちゃうし。
堤 あれも実話です。
三浦 だから「MY HOUSE」は、モノや所有への対極を言う映画ではないと思ったんです。じゃあ、何が対極なのかなというと、「工夫」なのかなと。映画には、広告に洗脳されてひたすら洗剤で風呂や食器を洗い続ける潔癖症の主婦・木村多江と、何かを拾って、何かに使えないか、しかも別の用途に使えないかと工夫するのが楽しいとつぶやく鈴本さんの違いなのかなと。
堤 今、モノを拾って自分に役立てて使うということは、ほんとうに忘れられていると思うんです。買って捨てることだけが生活となっている。鈴木さんがやっていることで象徴的なのは、ほんとうに磁石でクギを拾っているということです。僕も小学校3年のときにちょっとやった記憶はあるけれども、クギを拾うっていうこと自体がほんとうに新鮮でした。さらにアイデアが膨らんでいくと、ガソリンスタンドで捨てられている使用済みの自動車用バッテリーを拾うようになる。実際、モデルの鈴木さんの家にはテレビがあって、動いている。でも、僕らはそもそも、どこにバッテリーがあるかということすら知らない。
原作を書かれた坂口恭平さんのフィールドワークが面白いのは、バッテリーって、ガソリンスタンドの縁石の端ギリギリのところに置いてあると気づくことです。ガソリンスタンド側がバッテリーを捨てようとするとお金がかかる。ほんとうはタダで捨てたいのだけれど、でも、それはできない約束になっている。だから縁石ギリギリのところにバッテリーを並べておき、アイコンタクトで鈴本さんに「どうぞ持っていって」という、流通システムにそういう工夫があるわけです。
三浦 そこに見えない糸があるんですね。
堤 そうなんです。その機知を得るためには、相当足で稼ぐことが必要だろうし、同時にクレバーな頭の回転力がないとできない。