「世の中への怒りを示すため」弱い女性を狙う加害者もいる
また、近年の傾向としては、「年上の女性なら許してくれると思った」などと誤った母性を相手に重ねていたり、あるいは、女性の地位向上を推進する政策的・社会的背景への不満から、「世の中への怒りを示すために女性に屈辱的な思いをさせたかった」という犯行動機を語る犯人もいた。
こうしてみると、もし性犯罪防止に対して適切に対処しようとするならば、加害者と被害者の両者の心性について正しく理解しておく必要があるだろう。
性欲ではなく支配欲
まずは加害者の心性について正しく理解するために、加害者に関する誤解されやすい項目の例を【図表1】にまとめて示した。
「誤解されやすい事項1」として挙げられるのは、「性暴力は抑えがたい性的欲求による」という誤解である。性犯罪の根底にあるのは、セクシャルな言動を通じて表現された他者への支配欲である。それゆえ、性的関心はもちろん存在するものの、いわゆる一般的に考えられているような性的満足を得ることだけが目的ではないことも少なくない。
筆者が精神鑑定などの場面で男性の強姦犯らの話を聞く限りでは、犯罪行為の際に必ずしも射精にいたっていないことも珍しくない。また、性犯罪者は普段から性欲が強いとか、男性ホルモンが高値であるなどとも誤解されがちであるが、これまでに精神鑑定を行った性犯罪者たちのなかには男性ホルモンの値が異常値を示していた者はいなかった。
性加害者は常に「抵抗しないであろう者」を選んでいる
「誤解されやすい事項2」は、「性的欲求は衝動的でコントロールが不能である」という誤解である。加害者はほとんどの場合、「抵抗しないであろう」者を選んで加害行為を行っている。このことからしても、コントロールできない衝動的な行動であったなどということはできない。刺激によって性的欲動が発動する時点では、年齢、容姿や服装など、自身の好みの相手を物色していたとしても、最終的に実行に至る際には好みよりもより狙いやすい相手にターゲットを絞っているのである。