ウェブサイトの訪問履歴などはどのように管理されるべきか。慶應義塾大学大学院の山本龍彦教授は「EUでは自己情報コントロール権が基本的人権として認められており、アメリカでも同じ動きが進んでいる。しかし、日本では認められておらず、企業同士の勝手なやりとりを止められない。このままでは世界の潮流から取り残されてしまう」という――。

※本稿は鳥海不二夫、山本龍彦『デジタル空間とどう向き合うか 情報的健康をめざして』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

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自分の情報をどこまで公開するか自分で決める権利

自己情報コントロール権とは、自分の情報を、誰とどこまで共有(シェア)するかを本人が主体的に決定できる権利のことを言います。

例えば、他人には隠しておきたい秘密も、実際には親しい誰かとはシェアしていることが多いものです。そこでは、秘密をシェアする範囲を自ら主体的に決定しており、この決定が侵害されること―家族とのみシェアしようとしていた秘密事が、いつの間にか会社や警察に知られていた―などが、プライバシーの侵害だと考えられます。

そうなると、プライバシーの権利とは、ひらすら何かを隠すという消極的なものではなく、他者とどこまでの情報をシェアするのかを自ら主体的に選択・決定するという積極的なものとして理解されます。このように、プライバシーの権利(の少なくとも一部)を「自己情報コントロール権」として捉える見方は、1970年代から世界的に広がっていきました。

この権利は、アテンション・エコノミー(ネット上の広告など、人々の「アテンション=関心」が通貨のように取引されること)の下でユーザーの情報的健康を実現するためにも非常に重要です。

自己のデータに対するイニシアチブ(主導権)を個人がもつ、という「個人起点」の考えを埋め込んだ自己情報コントロール権は、AIネットワークシステムにおいて個人の主体性を回復し、認知過程を防御して個人の自律的な意思決定プロセスないし自己決定を守り、謎めいた存在としての「人間」の尊厳を守ることに大きく寄与するからです。

日本ではこの権利が未だ公式には認められていません。