西内 啓 にしうち・ひろむ●1981年、兵庫県生まれ。東京大学医学部卒業後、東京大学大学院医学系研究科助教。2010年4月より米国ハーバード大学に留学予定。著書に『「ロジカル」暗記術』など。

「覚えるもの」を絞り込んだ結果、丸暗記せざるをえないものも出てくる。そこで、“テクニックとしての記憶術”の出番となるわけだが、「万人にとってベストの記憶術など存在しない」と西内啓さんは断言する。抜群に耳がいい「音声型」、一度見た風景は忘れない「映像型」など、人によって暗記の“得意ワザ”は異なるからだ。

「合わない記憶法のせいで効率が上がらず、『なんて自分は頭が悪いんだ』と思い込んでいる人も結構いると思います。音声型、映像型、文字型など、自分のタイプを認識して、それに合った記憶法を選ぶべき。誰かに勧められた方法は、その人に合ったやり方なので、自分向きとは限らないのです」

自分のタイプは趣味や好きな情報媒体と関係があるという。たとえば絵が得意な人は映像型、読書が好きな人は文字型の可能性が高くなる。また、お気に入りの映画の場面を人に説明するとき、「セリフを正確に再現する人」は文字型、「音楽や効果音について語る人」は音声型といった判別の方法もある。

では、それぞれのタイプにはどんな記憶法が最適なのか。

音声型なら、何度も声に出す、繰り返し聴くことが王道だが、「プチ裏ワザは『ナベアツ方式』。数字を覚えるとき、イチ、ニッ、サーンと3の倍数でアホになる(笑)。強弱をつけると覚えやすいみたいですよ」と西内さんは語る。

映像型の場合は、目立つ色で大きく書かれた英単語や数字を、じっくり見て覚えるようにする。目を閉じると、文字が映像として瞼の裏に浮かぶだけでなく、頭の中で読めるようになるまで凝視すること。文字型であれば、文字として書かれたものをひたすら黙読するとよい。

また、音声、映像、文字、いずれの方法もしっくりこない人は「動作型」の可能性も。テンキーを叩く手の動きで数字を覚えるなど、動作をともなって体に覚えさせるタイプである。

「勉強は苦手だけどスポーツは得意だという人は、『動作型』である可能性が強いですね。東大を出ているのに、会社員になってからはミスばかり……という人は、動作型の記憶が極端に苦手なのでしょう。仕事は体で覚えるような部分がありますからね」と西内さん。

「当たり前のことですが、どのタイプでも集中して取り組むことが重要です。トイレや風呂など、自分なりの“集中スポット”を見つけると効果的ですよ」

(澁谷高晴、永井 浩=撮影)