死の間際に容疑者が感じたこと
誠実に堅実に生きてきたのに非業の死を迎えさせられた養母が、その死をもって凛に、人の命というものの重さを見せつけたのだとしたら。
たとえ最初から遺産目当て、偽造された戸籍による縁組であったとしても、何より養母がそんな亡くなり方をする理由など一つもなく、われわれにも無念さしかないとしても。養母は養母として、養子に一つの教育を施せたのではないか。
もちろん、彼は生きて真実を語り、罪を償うべきだった。しかし養母の死によって、養子は己の生死すら稀薄なまま軽く死んでいったのではなく、重い罪の意識に苛まれて己と向き合っていたとも思いたい。