「サタン側に立つ誰かを撃ったとしても許される」

【元木】襲撃事件から十年間は、右翼とこの教会を、同時に取材していたそうですね。朝日ジャーナルの批判も含めて、朝日を憎んでいたということでは、こちらのほうの憎悪が強いし、右翼を装った犯行という可能性も高いような気がしますが。

【樋田】朝日ジャーナル誌上で霊感商法批判の記事を書いた記者は、信者とみられる複数の男たちによって四六時中監視されていたし、娘さんが幼稚園に通う際、これらの男たちが付きまとうので、家族や知人が付き添っていた時期もありました。

統一教会側も、大阪の各店舗では、連休明けに警察が入ってくるのではないかと言われていて、文書を処分し、緊張が高まっていたそうです。

【元木】その前から、南京大虐殺の報道に対して告訴したり、「朝日新聞の赤い疑惑」というビデオを作って、朝日への憎しみを掻き立てていたそうですね。

襲撃事件の前に、対策部長と名乗る男が、「サタン側に立つ誰かを撃ったとしても許される」と、信者の前で言っていたとも書かれています。

統一教会は、当時、全国に二十六の系列銃砲店を持ち、射撃場も併設していた。樋田さんたちは、「勝共連合の中に秘密軍事部隊が存在していた」と話す信者にも会っていますね。

編集委員が世界日報側から金をもらっていた

【樋田】あの『赤い疑惑』ビデオは見ましたが、本当にすごい。あれを見たらだれでも朝日が嫌いになる(笑)。

秘密軍事部隊のほうは、脱会した元信者の紹介で、学生時代の仲間で、やはり脱会していた夫婦から、「三年前に脱会する直前まで秘密軍事部隊にいて、銃の射撃訓練も受けていた」と打ち明けていたというので会いましたが、朝日の記者と名乗って話を聞いていないので、当時は記事にできませんでした。

しかし、記者たちが地をうような取材を続けている間に、社の幹部たちは驚くべき裏切り行為をしていたのだ。

ノートにメモをとる男性の手元
写真=iStock.com/golfcphoto
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【元木】統一教会と朝日新聞のことで、樋田さんが、社を辞めなくては書けなかったことがありますね。一つは、先の世界日報の元編集局長の部下だった人間が、彼の指示で定期的に朝日のN編集委員に会って、預かった五万円ないし十万円のカネを渡していたと話した。

それはN編集委員が被害者の父母の会の情報などを統一教会に流していたり、統一教会への批判記事を抑えてもらうことの報酬だったという……。

【樋田】朝日新聞は教団の学生組織の宗教活動で、子供が突然親に反抗したり、家出して信者になるという現象を取り上げて、教団が日本で布教を始めてから最初の批判記事を書いています。統一教会の取材の中心になってきたN編集委員(当時)が、教会から篭絡されていたというのは、到底信じられなかったですね。