障害年金の残高が尽きたら次は生活保護の申請を試みる

もちろん、5年分の障害年金をまとめて受給できたとしても、それだけで長男は残りの人生を暮らせるわけではない。ひとり暮らしがスタートした後、障害年金が底を突いてきたら、長男についても生活保護の申請をおこなうしか、生きるすべはないと考えられる。

生活保護に移行することを考慮して、アパートを借りる時は、居住地の自治体の住宅扶助内の金額のアパートを探すのが望ましいとアドバイスした。たとえば、居住地の住宅扶助額がひと月5万9000円だとしたら、5万9000円までの予算でアパートを探すということである。

障害年金の申請を先におこないたいのは、生活保護の申請の際、精神的な病気などで「働けない理由」があったほうが、通りやすいと考えたからだ。もちろん長男が働いて、自立するのが理想とはいえ、50年近い人生の中で1日も働いたことがなく、注意されるとキレてしまう長男が働き続けるのは現実的ではないだろう。また、長男の暮らしが安定しなければ、小林さんと長女は、この先もずっと苦しめられることになる。

障害年金を受給できたあとに、生活保護の申請が通った場合、生活保護費から障害年金の受給額は差し引かれる。生活保護の場合、ほかに活用できる資産がある場合には、必ず活用する必要があるからだ。

ちなみに、働いて収入を得た場合は、全額を差し引かれるのではなく、生活保護の制度に設けられている計算式に当てはめて、保護費から差し引かれる金額が決められる。働いて得た収入のすべてが保護費から引かれてしまうと、働く意欲を低下させてしまうため、働いて得た収入の一部は、手元に残る仕組みになっているからだ。

長男の生活にめどが立たないと安心して暮らせない

小林さんのケースは、1~2回程度の相談で解決にたどり着くことは考えられない。そのため、私自身も長期戦になると腹をくくって、長男が生活保護の申請をする際には、「私も同行します」と提案している。生活保護の申請の際、初回は3時間近く生活状況について質問されるのが一般的なのだが、長男が話の途中でキレたり、答えなくなったりして、申請が進まない展開が想像できてしまうからだ。

いずれにしても小林家の場合、この先も親が長男の生活を支えるのは不可能である。障害年金、生活保護の順番で申請を前に進めるしか、長男が生きていく方法はないだろう。

自治体の協力も得ながら、長男の障害年金の受給やその後の生活保護の申請が認められたとしたら、その後にようやく小林さんは長女との新たな生活のプランを立て直せることになる。

残りの人生を穏やかに暮らしたいと、小林さんは切に願っている。同時に、認知症が重くなって長男のことが思い出せなくなってきている妻は、特別養護老人ホームで心穏やかに暮らしてほしいと、小林さんは願っているところでもある。

介護職員がシニアの手を握る
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです
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