妻の認知症が進行し、特養入所が決まったが…

さらに小林家には、別の問題も発生している。

5年くらい前、70歳手前だった妻に認知症の症状が出始めて、介護が必要な状況になっているのだ。妻の介護は、小林さんと長女で協力しておこなってきたが、少しずつ重くなってきており、負担がかなり重くなっている。そのため、浩平さんも継続して働くことが難しくなっている。現在は夫婦の年金収入(月計15万5000円)があるとはいえ、勤労収入は長女のアルバイト代(月8万円)だけになっている。

最近、妻は要介護3と診断された。これ以上、自宅で妻を介護するのは難しいと判断した小林さんは、地域包括支援センターに相談。長男のことで日ごろから自治体のさまざまな部署と連絡を取り合っていることもあってか、小林家の事情が考慮されたようで、特別養護老人ホームへ入居を申請したら、数週間ほどで入居が認められた。

だが、入居は認められたものの、妻の入居費用を支払うことが、現実的には難しい状況である。そこで、前出の知人は「奥さんを特養に入居させるには、どうしたらいいか?」という相談を私に持ちかけてきたわけである。実際に小林さんにお会いしときに、長男の問題でも困っている話をうかがった。

窓に映る男性のシルエット
写真=iStock.com/liebre
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急を要する妻の入居費用については、妻は、小林さんと長女とは世帯を分けて、生活保護の申請をおこなうことを検討した。長男が占拠しているとはいえ、小林さんと同一世帯のままにしておくと、居住地の自治体の基準を超える自宅を保有していることになり、生活保護の受給が見込めなかったからである。

ちなみに自宅を保有していても、居住地が定める基準額以下であれば、住宅扶助(家賃分)を受給しない代わりに、自宅の保有は認められる。しかも、固定資産税は法定免除になり、支払わずに済むのである。

だが、小林家の場合は、不動産の評価額が基準額を上回っているために、妻はひとり世帯にならないと、生活保護の申請が却下される可能性が高かった。

申請の結果、妻の年金が少ないことや妻名義の貯蓄は数万円しかないこと。さらには、小林家の困窮ぶりを自治体が把握していたこともあり、妻の生活保護の申請はスムーズに通った。生活保護費から、妻が受け取っている年金額は引かれるものの、特別養護老人ホームにかかる費用は生活保護費でまかなえるめどが立ったのである。