EUは立法機関である欧州議会を中心に、対中姿勢を硬化させている。
一方で、中国は引き続きヨーロッパの市場へのアクセスを重視している。その足場として、バルカン半島からハンガリーを一体的にとらえているように考えられる。これらの国々がロシアとも比較的友好的であることも、中国にとっては都合がいいといえるのではないか。
インフラ投資といったハード面のみならず、公衆衛生でのサポートという一種のソフトパワーも行使した中国に対して、EUは有効な対抗手段をまだ用意できていない。EU版一帯一路ともいえる「グローバル・ゲートウェイ」構想下での支援対象からEU加盟済みの中東欧諸国は外れているし、EU未加盟の国々への支援の展望も描きにくい。
EUによる開発支援は、当然だがEUの経済観が色濃く反映される。新興国ではインフラの建設には経済性よりも政治性が重視される傾向が強いが、EUは支援に当たり経済性の高さを強く要求する。さらに「グローバル・ゲートウェイ」構想では、EUが重視する「デジタル化」と「脱炭素化」にかなう領域でのサポートを念頭に置いている。
とはいえ、新興国でそうした諸条件をクリアできるプロジェクトなど、まずない。欧米諸国が「債務の罠」につながると警告を繰り返したところで、新興国にとって話が早い中国からの投融資は魅力的である。結局のところEUは、有効な手立てをとることができないまま、バルカンからハンガリーにかけて中国の進出を許し続けている。
岐路に立つ中国の「一帯一路」
そもそも「16+1」は、習近平政権の「一帯一路」構想の延長線上にあったものだ。
中国がもともと「一帯一路」構想に確たるビジョンを持っていたわけでもないが、バルト三国が離反したことや、コロナ禍で中国が中東欧の「選択と集中」を進めていたことは、この「一帯一路」構想そのものが岐路に立っていることの証左といえよう。
時を同じくして生じたスリランカの国家破綻も、中国の「一帯一路」構想が岐路に立っていることをよく示している。スリランカは7月5日、国家が破産したと宣言した。スリランカのハンバントタ港は、その建設から運営までが中国の手によって行われており、スリランカが陥った「債務の罠」を象徴する存在としてよく知られている。