「成果がなければ君は戻る席がないかもしれない」

少しさかのぼり、1999年、サムスンの総合研修所に招かれ、世界各国に派遣される30代前半を中心とした100名近い人たちの前で講義をした。サムスングループの家電、建設、貿易商社、プラント、金融等各企業が集まり、世界規模のビジョンや世界各地域の動向、業種別の業績目標が若い世代に共有されていた。

カナダ・トロントのイートンセンターにあるサムスンストア
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「何でも好きなように変えろ。ビジネス手法でも前例でも。ともかく成果を上げよ。成果がなければ君は戻る席がないかもしれない」とハッパをかけられていた。

階段教室の座席に一つずつパソコンが内蔵されていて、私が壇上に向かうと同時に、一斉に音もなくパソコンがせりあがってきて、ノートとペンでなくパソコンでメモをとっていた。23年前のことで、「近未来の映画のようだ」と私は目を見張った。日本のビジネスマンにたずねたら、会社・業種を超えての海外派遣研修は日本のどの大企業でも聞いたことがないとのことだった。

実は2013年にも同じサムスン総合研修所に招かれ、こんどは日本人グループ相手に話をした。サムスンがその技術に着目して買収した、日本のさる地方の中小企業だ。純朴でおとなしい方たちだった。「相手が日本語のうまい人でも、察してくれると思って黙っていたらだめですよ、皆さんの意見や要望は口に出して言わなければ」と話した。サムスンが買収して町工場の技術が残ったとはいえ、一日本人として複雑な思いであった。

製品の質が高くても地道な営業努力を知らない日本企業

その後、日本を非常によく知る経済界の知人が語ったことも紹介したい。

「百年二百年続く蕎麦屋、刀鍛冶かたなかじ、織物、酒醸造など日本のたくみの伝統、職人気質。それは韓国人も知っています。皆、感心しリスペクトします。ノーベル賞を毎年のように受賞しているのもすばらしい。コロナ下で毎日使うようになったQRコードが日本のデンソーさんの開発だとは知っています。でも、日本が米国や中国、ドイツより技術力が高いと日本の方は本当に思っているのでしょうか」

以下、第三国の視点から、日韓のビジネスを比較してみようと思う。

中東最大のビジネス拠点ドバイで、総領事として勤務したときのこと。中東は日本へのリスペクトが高いのだが、ビジネス面では官公庁や有力企業からよく苦言が呈された。

「日本企業は、製品に自信がありすぎるのか、マーケティングというものをしない。私のところに、英米仏独中韓の企業が軒並みやってきては、売り込みをしたり雑談をする。ランチにも行って自然に親しくなり、私もその企業の情報を得る。でも日本の企業は一度も来たことがない。入札のときに1000ページもの書類をどんと届けるだけ。ふだんの地道な営業努力を、日本だけ知らないようだ」(さる役所の長官)