「そこそこ手をかけている割に実入りは少ない」

そこで観光業(ホテル業)には、2つ選択肢がある。

1つは宿泊客が自炊する低価格のレジデンス型。なるべく人手をかけずに施設利用分のお金を払ってもらう。

もう1つは、至れり尽くせりのサービスと施設で多額のお金を払ってもらう。要は成毛さんが言われたような富裕層向けの高級ホテルだ。東京、京都、三重で展開している高級ホテルグループ、アマンリゾーツがいい例である。

今の日本で問題なのは、この中間のホテル・旅館が多いことだ。星にして2つから3つくらい。そのために、「そこそこ手をかけている割に実入りは少ない」というジレンマに陥っている。

低価格なら、すでにビジネスホテルが「いい食事も温泉もいらない、ただ泊まれればいい」という観光客の受け皿になっている。だが、このモデルはどうしても低賃金労働力依存型になり、これ以上増えることに大きな意味はない。

むしろ中価格帯ゾーンについては、ちゃんとしたレジデンス、長期滞在タイプの素敵な施設をもっと増やすべきだ。北欧などきわめて人件費の高い国の田舎には、素晴らしい施設でリーズナブルな価格のレジデンスがある。

働いている人の数が少ない分、中途半端なホテルよりも安かったりする。人件費をかけず立地と設備で勝負するモデルだ。これはこれで労働生産性が高いモデルだ。

日本の伝統的旅館に到着した若い旅行者のグループ
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです

日本の魅力的な観光コンテンツにも目を向ける

また、高価格帯ゾーンのフルサービスのホテルで、食事付き1人1泊最低でも10万円くらいの価格設定で勝負するところが増えると、自然と筋のいいインバウンドしか来なくなる。

成毛眞、冨山和彦『2025年日本経済再生戦略』(SBクリエイティブ)
成毛眞、冨山和彦『2025年日本経済再生戦略』(SBクリエイティブ)

世界という単位で考えると、この程度の金額を払える金持ちならたくさんいるから、日本の観光産業としては相当のインパクトをもちうるし、こうした顧客たちが日本の観光地のブランド価値を上げてくれる。

せっかくなら行儀のいい外国人に来てもらったほうが、提供する側としても安心だ。

そもそもアジアのなか、いや世界のなかで、自然面、文化面で日本ほど素晴らしいコンテンツをもっている観光国は他にない。単に観るだけでなく、スポーツやアウトドア系の体験型、アクティビティ型コンテンツもたくさんある。

だから安売りまでしてたくさんのお客さんに来てもらう必要はない。雇用数的には、旅行業、観光業は今や自動車産業と並ぶこの国の基幹産業である。

これが高付加価値生産性、高賃金の産業に転換できれば、そのインパクトは限りなく大きい。

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