打ち手を絞る

はい、案がたくさん出ました、構造化できました。次は、絞らなくてはなりませんね。じゃ、みなさんのおすすめの案を教えてください。「出生率を上げる」「死亡率を下げる」「移民を増やす」「植民地をつくる」で、手を挙げてください。

……「出生率を上げる」がいちばん多い。「出生率を上げる」8割、「死亡率を減らす」が1割、「移民を増やす」1割という感じ。「植民地」は、いない。

まず生まれるのを増やしたい人。なぜですか? なぜそれがおすすめ?

——若い人を増やしたほうが人口ピラミッドも正常になるから。

正常になるから。たしかにそうですよね。わかります。死ぬのを減らしたい方? なぜですか?

——たとえば自殺なんですけれども、自殺することで、その分の人数も減りますが、残った家族のダメージが大きくて、快適な生産がすごく減ると思うので。

では、移民をおすすめする方。なぜですか?

——確実性があるかなって。少子化対策はすぐ効果があるかわからない。増えないかもしれないじゃないですか。治安の維持とか、日本人を増やすとかの条件がなければ、いちばん達成に近いのかと。

なるほど。わかります。では、もう一度考えてみてください。命題は、「日本の人口を10年後に1.2倍にする」ということです。今日学んだことを思い出してみましょう。

——何のために増やすのか?

はい、その通り。命題に戻る。「なぜ?」ですね。なぜ人口を増やすのか? なんで10年後に1.2倍にしたいのか? 情報は少ないですが、想像できますか?

——日本を活性化させたい。

——少子高齢化による年金負担とか医療費の問題を解決する。働く若者を増やして人口ピラミッドのバランスをとるため。

なるほど。じゃあ、ここでいう「人口」は、単なる人口ではなく「労働人口」であるということでしょうか?

——はい。

じゃあ、そうだったとします。労働人口だと。さっきの日本の活性化も考えたら、確実に消える打ち手は何ですか?

——死ぬのを減らす。

佐々木裕子『実践型クリティカルシンキング 特装版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
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はい。これ逆ですね。年金問題や医療費問題の解決にはならないですから。ほかには?

——「出生率を上げる」。出生率を上げても、10年後には労働者になれない。

そうなんです。間に合わない。

ですから、もし「10年後までに(労働)人口を1.2倍に増やす」が、ほんとうに正しい目標設定で意義があるんだとしたら、この短期間でできるのは「移民受け入れ」しかないということになります。数千万人規模でできますからね。相当たいへんなので現実的にどうかという問題はあるにしても、論理的にはこれしかないということになります。

こういう打ち手の仮説を考えるときには2つのポイントがあります。