救急車からの実母の電話に頭が真っ白に
採用するのは40代の人たちが多かった。家へ帰っても子育てや家事に追われて「時間がない」と、あきらめて辞めていく人もいた。
その大変さを実感したのは、自分も一人目の子どもを授かった後だった。2012年に出産。育休を経て、トレーナー職へ復帰。フルタイムで働き始めたものの、仕事と育児のバランスがどんどん崩れていった。
「復帰したときは出産前と変わらぬ意気込みで仕事に臨みました。私はやりたいことをどんどん提案していくタイプなので、どうしても前のテンションでやってしまう。上司もすごく尊敬している方だったので期待に応えたいという思いもありました。けれど、そのうち何かがおかしいと思うようになって……」
復帰後まもなく、深見さんは沖縄で店舗をオープンする仕事に携わった。上司は「大丈夫?」と気遣ってくれたが、深見さんは「やります!」ときっぱり。1歳の子どもを夫の実家に預け、隔週で2、3泊の出張へ。会員数100名という目標を達成するために新規獲得に力を入れた。
出張中、あるとき実母から電話があった。子どもが舌を切るけがをしてひどく出血し、慌てて救急車を呼んだという。その車内から連絡してきたのだった。
「もう動転して、どうしよう……と。すぐに駆け付けることもできなくて」と深見さんは言葉に詰まる。子どものけがは大事に至らずに済んだが、自分を責め続ける日々が続いた。
「あの頃は保育園から呼ばれることも多く、お母さんに迎えに行ってもらったり、職場で早退させてもらったり。その度、皆に『ごめんなさい』と謝ってばかりでした。私は子どもが初めて歩いた瞬間も見ていないし、そばにいて子どもの成長を一緒に感じることはできない環境下で、自分は何のために仕事をしているんだろうと思うようになったのです」
働き方を180度変えたワケ
つらい気持ちが溢れ、上司に泣きながら電話したことがあった。
「もう、できません。もう、仕事は無理です……」と。すると上司も、「あなたができるというから信じちゃって、ごめんね」と謝るのだった。もともと上司は気遣ってくれていたのに、自分だけが先走っていたことに気づき、深見さんは恥ずかしくなったと振り返る。
それからは子どもと一緒に過ごす時間を増やし、2016年には二人目の子も出産。復職したのはトレーナーの仕事ではなかった。深見さんは現場を離れ、マリッジコンサルタントの営業数値管理を行うセールスマネージャーを任されたのだ。
しかし、そのときも葛藤があったという。マリッジコンサルタントの仕事は店舗での営業なので、週末の土日が一番忙しい。子育て中の自分は日曜に出勤できないため、マネージャーとして役に立てないと思った。それでも上司には「平日いるときにちゃんとやればいい。あなたは期待されているのだから、まずやってみてから考えなさい」と背中を押され、休日は上司が対応してくれたという。それまでマネージャーは男性が多かったが、会社としては、女性が活躍できる環境をつくりたいという意図もあったのだ。
「私も期待されると、ついがんばろうと思う性格なので(笑)」と深見さん。