そのきっかけは、2021年にポーランドでAUFGUSS WMを視察した際の出来事だった。

「ポーランドにはアウフグースマスターの箸休めサトシ氏と五塔熱子氏も同行して、世界のアウフグースを見てもらうつもりでした。すると当日、私の友人から2人に、アウフグースを会場でやってみないかと打診があったのです。しかもキャパは300人収容できるメイン会場。二人は突然の大舞台に緊張していて、最初はぎこちなさが目立ちました。しかし、終盤には観客からのスタンディングオベーションが起こる堂々たるショーを行ったのです」

日本初のアジア予選会場に

この出来事で日本のアウフグースも世界に通用すると確信を持ったそうだ。

「2022年4月にAUFGUSS WMの元チャンピオンを招いて、日本のアウフグースマスターにも世界の技術に触れてもらいました。今回、日本代表が本選に出場しても良い結果を出せるかは全くの未知数です。しかし、世界のアウフグースマスターと交流を重ねて互いに研鑽していくことで、世界水準のレベルまで行けると思います。そうやってサウナ施設とアウフグースマスターが連帯して盛り上げていければと感じています。そしていずれは日本でAUFGUSS WMの本選を開催したいですね」

金代表の熱い想いが叶い、ついに日本で初のアジア予選が行われることになった。個人32人、団体13組がエントリーしている。

「AUFGUSS CHAMPIONSHIP JAPAN 2022」の出場者
筆者提供
「AUFGUSS CHAMPIONSHIP JAPAN 2022」の出場者

審査基準は多岐にわたり、個人60点、団体70点満点での加点方式で採点される。また、タオルを落とすなど原点対象項目を行った場合は減点される仕組みだ。審査項目はショー的要素が占める割合が30~40%であり、これには企画力、独創性、センスなど、創意工夫を施す必要があるため、ポイント配分は高くなる。また、会場の雰囲気(盛り上がり)も重要な要素だ。

「AUFGUSS CHAMPIONSHIP JAPAN 2022」の採点表
筆者提供
「AUFGUSS CHAMPIONSHIP JAPAN 2022」の採点表

この大会で個人・団体の1位と2位がオランダで開催される決勝戦に、3位がスロバキアでのプレイオフに進む。

大会の主役であるアウフグースマスターは、どのような想いで大会に臨んだのだろうか。4人の熱波師を紹介したい。

「アウフグースマスター」たちの意外な経歴

アウフグースマスターの挑戦①~箸休めサトシ氏~

箸休めサトシ氏はスカイスパ所属、ドイツサウナ協会認定アウフグースマスターであり、お笑い芸人でもある。2019年の熱波甲子園秋大会では団体優勝。アウフグースマスターとしては、2009年に横浜市鶴見区の「おふろの国」で活動を始めた。

箸休めサトシ氏。個人演目は「ものの怪退治」、団体演目は「千と千尋の神隠し」
筆者提供
箸休めサトシ氏。個人演目は「ものの怪退治」、団体演目は「千と千尋の神隠し」

「当時はアウフグースの知名度はほぼなくて、お風呂にいるお客さまを無理やりサウナ室に呼び込んでいました。最初はやる側もよくわからず、盛り上げるために1000回あおぐなど無茶なことをやっていました。そのうち体力的にも精神的にも疲れ果て、2012年ごろに逃げちゃうんです」