20年以上前から続く新聞界との緊張関係

NHKのネット事業の拡大に対し、強く反発してきたのは利害が交錯する民放界であり、その後ろ盾となってきた新聞界だ。ただ、民放界は許認可を受ける総務省の監督下にあるため、もっぱら新聞界がNHK問題を取り上げてきた。

有識者会議の報告書に対しても、新聞協会メディア開発委員会が意見書を提出、「NHKのインターネット業務が際限なく拡大されることを強く危惧する」とクギを刺し、「巨額な受信料を財源にネット事業をさらに拡大すれば、民間事業者の公正な競争を歪め、言論の多様性を失わせることになりかねない」と懸念を表明。総務省に「懸念に応える真摯しんしな対応を求める」と迫った。

実は、20年以上も前の02年春、NHKのネット進出にあたって総務省が示した「NHKのインターネット利用ガイドライン」に対し、新聞協会はこんな見解を表明した。

「受信料という公的な安定財源を確保されているNHKが、多数の民間企業がしのぎを削っている分野へ参入すれば、市場の混乱を招き、民業圧迫につながるので、反対する。メディアの多元性を失わせ、民主主義の根幹である言論の多様性を損ないかねないとの重大な危惧を抱かざるを得ない」

当時、新聞界は、草創期にあった「ネット」の潜在的脅威に気づき、NHKが「放送」の枠から飛び出して「放送の公民二元体制」を崩しかねないことを警戒したのである。

マスメディア媒体の変遷
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筆者はかつて、NHK問題を検討する新聞協会の研究会の座長を務めた経験があるが、新聞協会の一員でもあるNHKと主要新聞各社との間に受信料やネット事業の在り方をめぐって微妙な緊張関係があったことが思い起こされる。

その時から、「ネット」への進出をもくろむNHKと、「放送」の枠内に押しとどめようとする新聞界の長い綱引きが始まった。

新聞離れが進んでも、変わらない主張

ところが、20年余の間に、NHKがネット事業を拡大してきたのに対し、新聞界の主張はほとんど変わっていない。

NHKがネット事業に乗り出そうとした20年前の前述の見解と、いよいよ「本来業務」に位置づけられようとする局面で出した今回の意見書を比べてみれば、ほとんど同じ内容であることは一目瞭然だ。

当時の問題意識はそのまま現在につながっているものの、「十年一日」ならぬ「二十年一日」のごとく、同じようなお題目を並べて、NHK批判を繰り返してきたのである。

この間、メディア界は「ネット」の大波に巻き込まれて劇的に変化し、「新聞」は、メディアとしても、産業としても、著しく衰退してきた。