コロナ禍の低迷を救う新フレーバー

2021年3月、ローソンの近畿エリアである会議が開催されていた。商品部と現場の代表である支店長数名が四半期ごとに集まって、エリアの運営方針を討議する会議だ。

会議の席上、商品部のメンバーからこんな議題が提出された。

「コロナの影響で売り上げが伸び悩んでいます。ぜひエリア商品を出して盛り上げていきたいのですが、からあげクンの新フレーバーで何かいいアイデアはありませんか?」

ローソンは今年度、「地域密着×個客・個店主義」を戦略コンセプトに掲げ、エリア(地域)に密着した顧客サービスの創造を目指している。エリア商品とはいわゆる地域限定販売の商品であり、地域密着を象徴する重要なアイテムだ。そもそもからあげクンの新フレーバーには店舗を元気にする効果があるが、地域限定の新フレーバーとなれば店舗はなおさら「売っていこう」という意識を持ちやすい。

しかし、会議に参加していた新井健吾京都南支店長(京都南地区にある130店舗を管轄する)は、近畿エリアだからといって「たこやき風」や「○○ポン酢味」といった、いかにも関西風な新フレーバーを出すことにはあまり意味がないと考えていた。そうした「味を似せた商品」をいくら出しても、その先の展開を期待できないからだ。

会議の出席者は「ほりにし? なんやそれ」

「ほりにし味のからあげクンを提案します」

新井さんがこう発言すると、会議室の中にクエスチョンマークが渦巻いた。

「ほりにしって、何?」
「アウトドア用の万能スパイスです。キャンプをやる人ならみんな知っています」
「お客様の中でそのほりにしを知ってる人って、どのくらいいるの?」
「とにかくSNSを検索してみてください。そうすれば、キャンパーの間でほりにしがどのくらい話題になっているかわかっていただけると思います」

コロナ禍の影響で、「安全なレジャー」としてキャンプ人気が高まっていた。2020年には610万人だったキャンプ人口が2021年には750万人と、わずか1年間で23%も増加している。こうした背景を考えても、新井さんにはキャンパーに人気のほりにしを使った新フレーバーは絶対に売れるという確信があった。

インタビューに応じた新井さんはこう話す。

「それはその通りなんですが、だからといって、単発の商品として売れればいいと思っていたわけではないんです」

では、いったい何を目論んでいたというのだろうか。

新井健吾さん。1980年生まれ。2003年ローソン入社。店長やSVを経て、18年に支店長に。店舗経営サポートを中心に社内部外調整などに携わる。
写真提供=ローソン
新井健吾さん。1980年生まれ。2003年ローソン入社。店長やSVを経て、16年に支店長に。店舗経営サポートを中心に社内部外調整などに携わる