大量の補欠は、監督が希望したのではない

「『どうしてもうちで野球をやりたい』という子供さんが、親御さんと一緒に面会に来るんですよ。私は『3年間試合に出られないかもしれないよ』と言うんだけど『じゃ、やめます』と言う子はほとんどいないね」

甲子園に何度も出場し、“名将”の名をほしいままにした監督は困った顔をして筆者にこう語った。

実は、多くの強豪校の監督は、100人以上の選手を抱えることを必ずしも喜んでいない。

別の強豪校の監督は、野球部のバスの運転手もしているが「私の目が届くのは“ワンバス”までだな、それを超えたらどんな選手かなんてわからない」という。“ワンバス”とは大型バスの定員である45人のことだ。

しかし、少子化の中、学校側はとれるだけの生徒はとっておきたい。少なくとも寮は満員にしたい。そういう意向があるために、毎年、監督が希望していなくても大量の「試合に出ない野球部員」が生まれるのだ。彼らの夏は、アルプススタンドで手拍子したり、踊ったりすることで終わってしまう。

野球人口は減って当然

なぜ、こうした状態が看過されるのか? それは、小中学校の野球のレベルでも試合に出ない選手が普通に生み出されているからだ。

少年野球の中にはできる子だけを試合に出場させて、あとは声出し、球拾いというチームが今もたくさんある。

ある母親は野球好きのわが子を少年野球チームに入れた。息子は休むことなく練習に参加したが、体が小さかったため一度も試合に出ることはなかった。

母は手記で「(最後の試合が終わって)息子は1試合、いや1打席もバットを振ることもなく小学野球を終了しました。その夜、食事をして『試合に出られなくて残念だったね』と言うと息子は『俺、チームで1番へたくそだからしょうがないよ』と言いました。私は涙が止まりませんでした。息子はただただ練習して、大きな声で応援して、ボールボーイをやって、コーチャーをやって終わってしまいました」と書いている。

こうしたことをしていれば、野球の競技人口は減少して当然だろう。

野球の試合を見ている少年
写真=iStock.com/Ichabod
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対照的に、アメリカでわが子を少年野球のチームに入れたある母親は「アメリカでも控えに回る選手はいますが、試合に出たいと思えば、その子は監督にそう言います。父親が話をすることもあります。納得できなければ、チームを辞めて他のチームに行きます。アメリカでは少年野球チームが毎週のようにトライアウトをしているんです。親の役割は、子供が試合に出られるようなレベルのチームにわが子を入れてやることです」と語った。