「未曾有の獣害事件」防ぐことはできたのか

私は多くの熊問題に係わってきて、いくらかは「見通せる」という自負はあった。

3人目の犠牲者が出ることも強く予想し、もし私が指揮官だったら阻止できたと思っているが、現場にいながら4人目の犠牲を阻止できなかったことで、熊追い人生を殴り倒されたような思いがした。

阻止法を執行者に助言できる立場ではないので、HPで発言するしかなかった苛立たしさと、発言していた研究者にはもどかしさ、時に怒りを感じた。獣害というものについてあまりに無知で楽観的だった。

私は第2事故までは単独の熊による連続事故と見ていた。しかし第3犠牲者が行方不明になっていると知った時から、第1犠牲者が食害を受けて事故が拡大しつつあり、しかも、それとは別に食害に参加する熊が現れたと思っていた。

しかし7月になると第2事故には「大きな熊が係わっている」という情報がじわじわと入るようになり、日夜「殺人熊X」の虚像に振り回され続けた。

情報が積み重なるにつれて、私の見方は徐々に、「殺人熊は1頭か2頭、他に食害熊が数頭」へと変わっていった。

つまり、地域にいた多くの熊が、事件に参加していたという、未曾有の事件だった可能性が高まっていたのである。

そして、私はあの地域にどんな熊がいたのかを、追い続けることになる。

【図表1】十和利山熊襲撃事件図
出典=『人狩り熊

(編注:次ページ以降、刺激の強いイラストが含まれます。閲覧の際にはご注意ください)